不器用な彼氏

『私、敬語辞めます!』

意を決して、唐突に宣言してみた。

『あ?』
『だって、よく考えたら同い年ですし…あ、同い年だし』

進藤さんを見ると、キョトンとしてこっちを見てる。

『ダメ…かな?二人の時だけでも…だってその方が距離感が縮まる気がするし…』

職場では当然、先輩後輩の間柄の私達。日頃の厳しい彼を思い出し、さすがに無謀だったかな?と思っていると

『また唐突だな…でもまぁ良いんじゃね』

と返事が返ってきた。

『え?良いの?』

意外にもアッサリ承諾。しかも、なぜか少し嬉しそうだ。

『職場じゃ出すなよ』
『はい!…じゃなくて、うん!わかってる。私も大人だし、ちゃんと公私の区別はわきまえてる』
『ほぅ大人…ね』

そう言うと『信用できねぇな』と笑う。

何だろう?敬語をやめただけで、また急にぐっと近づけた気がする。

その証拠に、さっきまで何処に行っていたのか、全くなかった食欲が復活し、おなかがグぅと鳴ってしまった。

『…何かちょっと緊張溶けてきたら、お腹すいてきちゃった』

もう自分を飾らず、正直に照れ笑い。

『アホか。我慢すんな』
『うん』

手を付けていなかった箸で、進藤さんおススメの、この店一番の人気メニューだという明太子のポテトサラダをいただく。目の前では、同じように料理をほおばる進藤さん。

これって現実だよね。私、今、進藤さんの“彼女”になってる。
思わず込み上げてくる熱いものを必死に堪える。

『どうした?』
『ううん。何でもない』

普通に食事している、こんな些細な時間でも“幸せ”感じちゃってるなんて、絶対教えてあげない。
先に告白したのは、進藤さんだし。

キャスティング・ボードは、まだ私が握っていたいから。
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