不器用な彼氏
にこりともせず、神妙な顔付きで対応する進藤さん。その風貌がそうさせるのか、業者も何を言われるのかと、緊張の面持ち。

『ちょっと確認してきますので、このままお待ちください』

意外にも丁寧な言葉使いで対応し、奥のパソコンで、データの照らし合わせ等、確認するために、席を立つ。行先は、10メートルくらい離れた場所にある、曇りガラスで囲われた小スペース。

そこには、各顧客毎のデータを保管している共有のパソコンなどがあり、現時点での進捗状況や、他部署での対応履歴など、詳細を確認ことができる。

『っだよ!全然違うじゃねーかッ!』

と、急に、彼の声が聞こえてきた。進藤さんのカウンター前に座っている業者がビクッとする。

『ったく、更新されてねぇじゃん!使えねぇ!』

尚も悪態をついている。
“またか…”とため息をつく。

『…あのぅ、あれって僕のことですかね?』

不安そうに話しかけてくる業者。

『いやいや、違いますよ!独り言です。誰かに向かって言ってるわけじゃないので安心してください』
『でも…』

あの悪態が、自分に向けた言葉ではないか?と、心配し始める業者。確かに、そう思って、当然かもしれない。

『本当に大丈夫です。多分、うちのパソコンデータの不確かさに、イラッとしてるだけですから』

そう安心させていると、案の定戻ってきた彼はケロリとして

『お待たせしました。特に変わった情報は、ありませんでしたね』

と、何事もなかったように、ごく普通に対応。業者もホッと、胸をなでおろす。全く、彼の独り言には困ってしまう。同じ課の人間はもう慣れてしまっているので、苦笑いで済むのだが、初めての人は、やっぱり怖いのだろうと思う。

こんな風に陰ながら、進藤さんのフォローをしていることを、彼は知らないのだろう。前は、無意識にしていたけれど、今は違う。

今は、彼の恋人として、みんなに誤解してほしくないから。心の声がダダ漏れてしまうのは、純真すぎる故。決して、人間的に悪い人じゃない、ということを。
< 37 / 266 >

この作品をシェア

pagetop