不器用な彼氏
『同じ建物内にいるんだ。いつだって会おうと思えば会えるだろう?』
たった1階の違いが、今はすごく遠くに感じる。
『…それに、俺にとっては、ちょうどよかったのかもしれねぇ』
『…?』
廊下の先で執務室のドアが開いた音がした。誰かが来る。
『待て』
彼がポケットから小銭を取り出し、自動販売機で飲み物を2本買う。
『…どういう意味?』
何だろう?妙にドキドキしながら彼の次の言葉を待つ。取り出したペットボトルの一本を私の手のひらに乗せると、
『ドキドキすんだよ、お前の隣にいると…仕事に集中できねぇ…』
“ドキッ”
『…それって』
こちらに向かう足音が大きくなる。
『察しろ、バカ』
顔をそむけて、私の頭に大きな手のひらをポンと優しく乗せると、何事もなかったように執務室に向かって歩いていく。
途中、すれ違った諏訪ちゃんに『あ、進藤さん、櫻木さん知らないですか?』と聞かれ、いつものように素っ気なく『そこの自販機』と答える声が聞こえてくる。
自分の心臓の音が、諏訪ちゃんに聞かれてしまうのではないかと、心配するほど早音を打っている。
『あ、いたいた!櫻木さん、お客様来てます…って!どうしたんですか?その顔??』
『え?なんか変な顔してる?』
『いや、なんか真っ赤ですよ?熱でもあるんじゃ…』
諏訪ちゃんが心配そうにのぞきこむ。
2人が付き合っていることは、まだ諏訪ちゃんにも内緒。
『ううん、大丈夫よ』
いぶかしがる諏訪ちゃんに、心の中で(ごめんね、もう少し二人だけの秘密にさせてね)と謝りながら、廊下を進む。手のひらには、私が前に『これ美味しい』と言ったピーチローズティー。
『覚えてたんだ…』
そう呟きながら、ふたを開けると、桃の甘い香りが鼻先をくすぐり、思わず頬が緩んでしまう…。
たった1階の違いが、今はすごく遠くに感じる。
『…それに、俺にとっては、ちょうどよかったのかもしれねぇ』
『…?』
廊下の先で執務室のドアが開いた音がした。誰かが来る。
『待て』
彼がポケットから小銭を取り出し、自動販売機で飲み物を2本買う。
『…どういう意味?』
何だろう?妙にドキドキしながら彼の次の言葉を待つ。取り出したペットボトルの一本を私の手のひらに乗せると、
『ドキドキすんだよ、お前の隣にいると…仕事に集中できねぇ…』
“ドキッ”
『…それって』
こちらに向かう足音が大きくなる。
『察しろ、バカ』
顔をそむけて、私の頭に大きな手のひらをポンと優しく乗せると、何事もなかったように執務室に向かって歩いていく。
途中、すれ違った諏訪ちゃんに『あ、進藤さん、櫻木さん知らないですか?』と聞かれ、いつものように素っ気なく『そこの自販機』と答える声が聞こえてくる。
自分の心臓の音が、諏訪ちゃんに聞かれてしまうのではないかと、心配するほど早音を打っている。
『あ、いたいた!櫻木さん、お客様来てます…って!どうしたんですか?その顔??』
『え?なんか変な顔してる?』
『いや、なんか真っ赤ですよ?熱でもあるんじゃ…』
諏訪ちゃんが心配そうにのぞきこむ。
2人が付き合っていることは、まだ諏訪ちゃんにも内緒。
『ううん、大丈夫よ』
いぶかしがる諏訪ちゃんに、心の中で(ごめんね、もう少し二人だけの秘密にさせてね)と謝りながら、廊下を進む。手のひらには、私が前に『これ美味しい』と言ったピーチローズティー。
『覚えてたんだ…』
そう呟きながら、ふたを開けると、桃の甘い香りが鼻先をくすぐり、思わず頬が緩んでしまう…。