不器用な彼氏

『…ねぇ』
『あぁ?』
『カイ君、私の事、最初どう思ってた?』
『何だよ、急に』
『あ!一目ぼれとか?』
『それはない』

再び即答で、キッパリ否定。もうちょっと言い方あるだろうに、と思うが、これが彼なのだから仕方ない。

『じゃあ、少しは気になる存在だったとか?』

段ボールにいくつかのファイルを入れながら、

『どうかな?ただ、変な奴だと思ったな』

さらりと言いのける。

『変って?』
『だってそうだろう?みんなが倦厭するこの仕事(TM)に自ら志願するなんて、かなりの自信家か、よほどのアホか…だしな』

確かに、この仕事を受けたとき、同僚で姉のように慕っている翔子さんをはじめ、周りのみんなに止められたっけ…と、当時を振り返る。

彼はふと手を止めて、こちらを見ると、今度は意地悪そうな顔をしてから

『ま、結局、後者だったわけだ』

と笑う。ひどいことを言われたのに、ドキリとする。

そんな顔で笑うのは反則だ。職場で、しかも仕事中には、絶対に見せない顔。なんだか急に泣きそうになり、あわてて視線をそらすと

『なによ、そんなこと言ったって、結局、私の事、好きになるくせに』

勝ち誇ったように告げる。

『は?』
『忘れたの?最初に言ったの、カイ君でしょ』

その時のことを思い出しながら

『あの嵐の夜に…ね?』
『う…』

初めて彼に想いを告げられたあの夜の事を思い出し、みるみる真っ赤に染まる彼の顔をのぞき込み、ここぞとばかりに不敵の笑みを返す。
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