不器用な彼氏
『俺が、はっきりしないのがいけないんだよな…』

頬が触れているシャツからは、微かに彼の吸う煙草の匂いがした。

彼は、どうしてこんなにも暖かいのだろう?私の背中に回された大きな手のぬくもりは、そこだけが熱を持ったように熱い。

『お前に、言ってなかったが、…俺は今回のことが無くても、異動希望書くつもりだった』

彼の鼓動が早音を打っているのが、胸元から伝わってくる。

『え…?』
『だから、むしろ今度の内部異動は、良かった気がしてる』
『…どうして?』
『俺は、お前とこうなって、コソコソする方が…もう、きちぃ』
『…カイ君』
『っていうより、こんなにも近くにいるのに、自分の気持ち隠せって方が、無理だろ?』

正直者の彼らしい。
それよりも、そんな風に思ってくれていたなんて、また熱いものが込み上げてきてしまうよ。

『…それに、もっと先の事も考えなきゃいけねぇしな』

ドキッ…それって…?
ふいに背中にあった彼の手が、私の両肩に触れるとゆっくり身体から引き離され、向かい合わせになる。

『止まったな』

優しく微笑まれて、また目頭が熱くなる。肩におかれた手の力が少し強まり、

『しばらくは新しい仕事に、集中させてもらう…でも、落ち着いたら、その時は…』

次の言葉をつぐみ、私の顔をまっすぐ見つめ返してくれる。心臓が早音を打つ。

『カイ君…それって…』
『もう…言わなくてもわかるだろう?』

潤んだ瞳で見つめ返すと、耐えられなくなったのか、目線をそらされる。

『言ってくれなきゃわからないよ』

思わず、先程までもたれかかっていた、彼のフリースの上着をつかむと、再び視線が合わさる。

『…言葉に出すのは苦手だ』

そういうと、肩におかれた手のうち一方の手が私の頬に、もう一方は私の背中に回され力を加えられる。

自分であおっておきながら、もう止められないと思う気持ちと裏腹に、冷静な自分が警告音を鳴らす。

『待ってカイ君、ここ職場だから…』

と抵抗してみるが、私の言葉も静寂に消え去り

『…少し黙ってろ』
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