不器用な彼氏
『気になります?』

向かいの席に座る東君に、話しかけられる。

『…進藤さん?そうね。ちょっと会うの緊張しちゃうかな?』
『多分、櫻木さんびっくりするよ』
『?びっくり?』
『例えばさ・・・』

そういうと、いくつかの分厚い冊子を何冊か持ち上げて、いきなり机の上にバンッとたたきつける。
思わず『ヒャッ』と、飛び上がる。

『ど、どうしたの??いきなり』
『普通にこんな感じ』

どうやら“進藤さん”という人のマネをしたらしい。
『ホントにぁ?』と少々オーバーすぎるジャスチャーに疑いのまなざしを向ける。

『いや、マジで。これ大げさじゃないですからね』
『もしかして、威圧的な感じの人?』
『う~ん、そういうのとはちょっと違うかな?無口だからあんまり多くは話さないけど、業者に対してとかも、別に横柄な訳じゃないし、暴力的な人でもないしね。ただ、さっき江守係長が言ってたけど、ホント身体が大きいからアクションが大きいっていうか、動きが乱暴なんだよね』
『ちなみに、年齢は?』
『あ、確か櫻木さんと同じですよ』

同級生か…。聞けば聞くほどイメージが沸かない。

『後ね、心の声が結構漏れるっていうか…、それがちょっと怖いところでもあり、面白いとこでもあり…ま、会えばわかるけど、悪い人じゃないから安心して』
『はぁ』

ますますわからなくなる。どちらにしても、担当のエリアをたった8人で受け持つのだから、無関心ではいられない。おそらく明日には会えるはずの渦中の“進藤さん”をあれこれ想像しながら、まずは黙々と机の整理を続けた。

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