不器用な彼氏
~同時刻。

海成は腰かけていた椅子から立ち上がると、沈黙したスマートフォンを、思いっきりベットにたたきつける。

『ッだよ!!』

意味の分からないことを言われ、妙な疑いをかけられ、挙句の果てには一方的に通話を切られる。初めての屈辱だった。

“なんなんだ、あいつは!”

落ち着かない苛立ちに、ベット脇の壁を思いっきりたたくと、隣の部屋の姉貴から壁をたたき返され

『海!うるさい!』

と叱られる。

居てもたってもいられず、夜中だというのに無性に走りたくなり、着ていたパジャマ代わりのスエットを脱ぐと、手近にあったTシャツに着替え自室を出る。

薄暗い廊下に出ると、隣の部屋の入口にもたれかかって、腕を組んでこっちを見てる姉貴と目があった。

『何よ、あんた、彼女とけんか?』
『…』

無視して階下に向かう。

『海、あんたみたいな男と、まともに付き合ってくれる女性なんてホント貴重なんだから、大事にしないさいよ』

何かを見透かしたような姉貴の声が、上から降ってくる。

“だから女は苦手なんだ”

海成は、心の中でそう毒づくと、玄関で乱暴に靴を履き、初夏の匂いがする外に飛び出すと、思いっきりドアを閉める。

『あのバカ、ドア壊れるって』

出ていく弟の背中を見送りながら、姉はやれやれと深くため息をつく。根は優しいくせに、大きなガタイと強面な顔で、人付き合いもまともにできない弟が、最近変わってきたのは、少し前から付き合ってる恋人のせいだというのは、薄々気付いていた。

“好きなくせに素直じゃないんだから”

ふと、意外にも不器用な弟の恋愛を心配してる自分に気が付き、思わず苦笑した。
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