不器用な彼氏
《恋愛と仕事の境界は、きっちり分ける》それが大人の恋愛の鉄則。でも、我ながら情けないことに、今日は朝からミスの連発だった。
『櫻木さん、体調悪い?寝不足?』
心配そうに諏訪ちゃんに声を掛かられ、『ちょっとね』と、返す声が沈んでしまう。
あれからずっと携帯は鳴らず、昨夜はいろいろと考えてしまって、ほとんど一睡もしていない状態。
“バカね。いい歳して…”
目の前のパソコンに向かい、自分のパスワードを入れて、業務用の受付簿を開くと、入力し忘れていた数字を打ち込み、忘れずに上書きをする。
“なんて単純なミスをしてしまったのだろう…”と反省をしながら。
と、次の瞬間、左斜め前方にある、お客様用の入り口の対面にあたる、社員専用の廊下に続くスライドドアが、思いっきり強く開かれる。こんな風に、このドアを開ける人など、誰もいないはずなのだから、社員はもちろん、ちょうど来社していたお客様までも、思わずそちらに視線を向ける。
異様なまでの怒りのオーラを漂わせて、彼が入ってきた。
『進藤君、どうしたのよ?機嫌悪いの?』
ほとんどの人間が、即座に察して目をそらす中、空気の読めない江守係長が軽口をたたく。無言でじろりと睨みつけ、近くにあった空席の机の上に、持っていた書類を乱暴に投げつける。
『…ヒッ!』
江守係長が息を飲むと、すかさず主任の古賀さんが飛んできて、
『進藤、コーヒーだろ?湧いてるぞ』
と、陽気に話しかける。どうやら、図星だったようで、私の数メートル先にあるコーヒーメーカーで、持ってきたコップにコーヒーを注ぐと、ついでにとラックの下の引き出しから、大量に買い置きしてあったおやつの“ばかうけ”を鷲掴みにして、これまた勢いよく引き出しを閉める。見かねた古賀主任が、
『お前もう少し静かに閉めろよぉ、周りの皆さんがびっくりされてるでしょうよ~』
と、フォローするが、本人は無言のまま置いた書類を脇に挟み、右手にコーヒー、左手に“ばかうけ”を掴んで、帰りはあろうことか、足でドアを開け、2階の執務室を後にする。
何となく、フロアにいた全員が、ホッとしている空気に包まれた。その場の空気を読んだ古賀さんが『ハイ、ゴジラのショーは終了で~す』などど、おちゃらけて笑いを誘って、場を和まし、何とか事なきを得る。
『櫻木さん、体調悪い?寝不足?』
心配そうに諏訪ちゃんに声を掛かられ、『ちょっとね』と、返す声が沈んでしまう。
あれからずっと携帯は鳴らず、昨夜はいろいろと考えてしまって、ほとんど一睡もしていない状態。
“バカね。いい歳して…”
目の前のパソコンに向かい、自分のパスワードを入れて、業務用の受付簿を開くと、入力し忘れていた数字を打ち込み、忘れずに上書きをする。
“なんて単純なミスをしてしまったのだろう…”と反省をしながら。
と、次の瞬間、左斜め前方にある、お客様用の入り口の対面にあたる、社員専用の廊下に続くスライドドアが、思いっきり強く開かれる。こんな風に、このドアを開ける人など、誰もいないはずなのだから、社員はもちろん、ちょうど来社していたお客様までも、思わずそちらに視線を向ける。
異様なまでの怒りのオーラを漂わせて、彼が入ってきた。
『進藤君、どうしたのよ?機嫌悪いの?』
ほとんどの人間が、即座に察して目をそらす中、空気の読めない江守係長が軽口をたたく。無言でじろりと睨みつけ、近くにあった空席の机の上に、持っていた書類を乱暴に投げつける。
『…ヒッ!』
江守係長が息を飲むと、すかさず主任の古賀さんが飛んできて、
『進藤、コーヒーだろ?湧いてるぞ』
と、陽気に話しかける。どうやら、図星だったようで、私の数メートル先にあるコーヒーメーカーで、持ってきたコップにコーヒーを注ぐと、ついでにとラックの下の引き出しから、大量に買い置きしてあったおやつの“ばかうけ”を鷲掴みにして、これまた勢いよく引き出しを閉める。見かねた古賀主任が、
『お前もう少し静かに閉めろよぉ、周りの皆さんがびっくりされてるでしょうよ~』
と、フォローするが、本人は無言のまま置いた書類を脇に挟み、右手にコーヒー、左手に“ばかうけ”を掴んで、帰りはあろうことか、足でドアを開け、2階の執務室を後にする。
何となく、フロアにいた全員が、ホッとしている空気に包まれた。その場の空気を読んだ古賀さんが『ハイ、ゴジラのショーは終了で~す』などど、おちゃらけて笑いを誘って、場を和まし、何とか事なきを得る。