不器用な彼氏
『この新社屋が出来て、ショールームもできたことだし、総務課から事務職の女性にも、この中の各セクションの仕事の詳細を教えてほしいって、頼まれててさ』
『…研修みたいな?』
『まぁそんなとこかな?一度には無理だろうから、順番にね。で、先週から、進藤が、広域の仕事を教えてるみたいなんだよね』

古賀主任がすかさず

『しかも、総務課のピチピチ女子にだぞ。あの進藤が!俺だったら、ウハウハだけどな!』

彼が、仕事と言ったのは嘘じゃなかったんだ…。前では、ズングリ体系の古賀さんが身体をくねらせ、『進藤さ~ん、優しく教えてくださ~い』などと、目をパチパチさせて、総務課の女子のマネを披露してくれる。

『ま、さすがに二十歳そこそこの女の子相手じゃ、去年の櫻木みたいにするわけにはいかないわな』

と直さん。私は苦笑いしながら、出来るだけ自分を抑えて説明している姿を想像して、彼の性格を考えれば、確かにこの上ない苦痛であろうと安易に想像できた。

おそらく去年の私に対するつっけんどんな対応だって、彼にとっては、最大限の努力の賜物だったのだろうから。

『しっかし、あいつには、女性への免疫つけさせるにはいい機会じゃないの?なぁ直!』
『別に、俺らが心配しなくったって、進藤だって、彼女くらいいるだろうよ』
『いない、いない。絶対いないね』
『また、テキトーなことを…』
『ってか、あいつと付き合う勇気ある女いねぇだろ。な!櫻木もそう思うだろ?』
『…ハハハ…どうかなぁ?』

“…古賀さん、そんな勇気のある女、ここに一人いるんですよ”

とは、さすがに言えず、とりあえず笑って誤魔化す。

でも、なんだか少し安心した。本当に、仕事を教えていただけなんだ。 少なくとも、彼の言ったことに、嘘はなかった。

…と気付くと同時に、勝手に変な誤解して、彼を疑うようなことを言ってしまった自分を思い出し、いたたまれなくなる。
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