不器用な彼氏
『でも、本当にすごいね、森下さん。たった一週間なのに、明日からでも私の代わりに、難なくTMの業務をできそうだもの』

彼女に、正直に感想を言うと

『そんなことないですよ。私には無理ですよぉ』

と、謙遜しつつ、ゆっくりと、髪をかき上げる。

その姿は、彼女の後ろに広がる青々とした初夏の空に映えて、何とも言えない神がかった眩しさを助長させ、一瞬眩暈にも似た感覚に陥る。あわてて目をそらすと、『最後に…』と前置きしておいてから、

『何か質問とかあるかな?』

と、聞いてみる。もちろん、何もないことを祈りつつ…。

『質問…ですか?』

彼女は、人差し指を唇の下に押し当てて、少し考えるそぶりをみせると、

『仕事とは、全く関係ないことでもいいですか?』

と聞いてくる。

『別にいいけど…?何かな?』
『あのぅ…櫻木さんって、お付き合いされてる彼氏さんって、いるんですか?』
『へ?』

突然出された質問は、予想をはるかに超えたもので、めんくらう。彼女は即座に、可愛らしい眉毛を八の字にして、いかにも申し訳なさそうな瞳で、訴えてくる。
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