不器用な彼氏
異動してきて1~2ヶ月もすると、違和感のあった職場もだいぶ馴染んでいくもの。
ただし、今回は、“TM”という噂通りのハードな仕事にチャレンジしている為に、まだまだ余裕は無く、仕事をやりこなすだけで精一杯の日々。当然のごとく、業務時間内で終わる日など皆無だった。
仕事は基本的にトレーナーの東君が教えてくれるのだけど、日中、東君がいない時や、業務時間外などでわからない時は、なぜか同じように毎日残業している(仕事というより資格取得の試験勉強をしているらしいが)、真後ろに座っている進藤さんを頼るしかない。
『進藤さん、この書類なんですけど…』
『あのさ~、この前も言ったけど、ちゃんと調べなきゃダメだって!』
『ハイ…気をつけます。』
『業者信用しすぎちゃ絶対ダメ。あいつらホントごまかすから。甘い顔しちゃダメなんだって!』
『ハイ…すみません』
おそらく相談する内容の8割は叱られている気がする。東君は私が年上だから気を使っているのか、丁寧な優しい教え方だけに、そのギャップは大きかった。
あまりに容赦の無い叱り方に、周りの社員や窓口に来るお客様や業者さんにまで、『大丈夫?』と声をかけられることもしばしば。
ただ、不思議と当事者である私としては、そんなに嫌な気はしなかった。
仕事なのだから仕方ないというのもあるけれど、日常、コミニュケーションが全く取れない進藤さんが、相談に乗ってくれている時だけは、キチンと向き合ってくれている気がして嬉しかったのかもしれない。