不器用な彼氏
中は、階段の脇のデットスペースを利用する形の小部屋で、狭くまっすぐに7~8メートル行くと、つきあたりを左に曲がってすぐ行き止まりになっているL字型をしている。

部屋の中は薄暗く、採光場所は、L字の先の突き当りにある小窓しかない。

パタンと金属の扉の閉まる音が鳴り、冷たい扉を背に立ち、目を凝らすと、左手壁際のコピー用紙が積みあがった場所の奥にある、グレーの棚の前で、壁に寄り掛かった状態で腕組みしている彼がいた。

『遅せぇ』

一週間ぶりに会話する、恋人への第一声にしては、甘さはゼロ。

実際、待たせたのは事実なのだから、謝るのは私の方だけれど、素直に謝るのも、“やっぱり来たか”と思われるのも少し癪に障り、

『…べ、別に、私は備品を取りに来ただけですけど?』

思ってもいない言葉が、口から飛び出す。

『ほぅ、そうですか?備品をねぇ』
『そう…ですよ。2階の備品棚にもなかったから、その…のり。そう、スティックのりを探しに来ただけですよ』

とっさに思いついた備品を口にして、すぐ後悔する。

その備品は、今彼の居る場所の奥、L字に曲がった先にあるもので、どう考えても彼の前を通らなければ、取りには行けない。

カイ君もそれをわかってるのか、大きなガタイの向きを変え、壁に沿うように背中をもたれかけ、狭い通路にスペースを作ると、腕組みをしたまま右手だけ、“どうぞ”と無言で動かす。

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