不器用な彼氏
『悪かったな…』

柔らかな声が、頭上から降ってくる。

『この前の電話で…俺が考えなしだった…』
『あ、私こそ…』
『こら、黙ってろって言ったろ』

今度はやんわり叱られる。
本気で怒ってるわけではないのは、頭に優しく触れる手のひらでわかる。

『…正直に言うぞ』

彼は続ける。

『俺はこんな性格だし、過去には物好きな女がいて、実際何度か付き合ったこともあるが、まず長くもって1か月が限度…奴らに言わすと、俺は何を考えているのか、わからないらしいが…』

と、自嘲するように笑う。
“そんなことないよ…”って言いたいけど、今は黙って彼の話を聞く。

『だから、お前と、こんなにも長くなって、正直、戸惑ってる。ずっと女と付き合うのは、めんどくせぇとしか思えなかったし、今までだったら、めんどくさくなったら、ただ切り捨てれば良かったからな。ま、実際には、そう思う頃には大抵、勝手に向こうが愛想尽かして去って行ったしな』

心なしか、ギュッと、抱きしめる手が、少しだけ強くなり

『でも、お前のことは、どうしても手放したくねぇ…』

切実な想いを、苦しそうにつぶやかれ、思わず熱いものが込み上げる。

不器用な彼が、自分の為に、一つ一つの言葉を噛みしめるように、一生懸命伝えようとしてくれているのが伝わってきて、どうしようもなく切なくなった。

だから、言葉を発することはせずに、ただ、“伝わってるよ”の意味を込めて、彼の服を握りしめる手に力を込める。

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