不器用な彼氏
『…長くなればなるほど、今まで経験したことのねぇ未知の感情が芽生えたり、自分でもどうしたらいいのか、わからなくなる。この前も、森下の事を言われた時、お前の気持ちも考えずに、信用されてない気がして、なんで信じねぇんだって、無性に腹が立って…』

たまらず、彼の胸上で黙って首を振る。私が勝手に誤解して、ヤキモチ焼いて、“ごめん”と、言わなきゃいけないのは、私の方なのに。

私がいまだに、律儀に黙っているのがおかしかったのか、一瞬フッと笑い、ずっと頭を押さえていた右手も解放され、腰のあたりにあったもう一方の手と組まれる。

組んだ手は離さずに、抱きとめたまま、ゆっくりと壁にもたれ、話し続ける。

『…でも、今は少しお前の気持ちがわかった気がするわ』
『?』
『今まで考えたこともなかったが、俺以外の野郎が、お前に特別な感情を持つのも許せねぇし、ましてや東みたいにコッソリでもお前を見てるなんて、想像しただけで虫唾が走る…って、笑うよな?自分でも驚きだ。こんな独占欲の塊みたいな…』
『そんなことない!』

我慢できず、彼の腕の中から顔だけを上に向ける。

『そんなことないよ。私は凄く嬉しい!』

身長差がありすぎて、まるで子供と大人のように、下からのぞき込む私と、上から見下げる彼の目が合う。

一瞬、また叱られるかな?と思ったけれど、今度は怒らずに、この上ない柔らかな笑みで

『そっか、それなら良かった』

と、微笑まれる。

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