不器用な彼氏
“ピッ”

小さな電子音が短く鳴いて、私の電波時計が、午後5時半を知らせる。

『大変!仕事中だった!あ、しかも、さっき本庄さんが、カイ君探してたんだった』
『ほっとけ。あのオヤジだって、いないときは何時間だって消えてる』

とはいえ、私も30分も席を離れて、何を言われるか、わかったものじゃない。

『戻らなきゃ』

もちろん、まだもう少し、このぬくもりに包まれていたい気持ちでいっぱいだったけれど、現実はそう甘くはない。後ろ髪をひかれつつも、彼の元を離れ、急いで出口に向かい、扉のドアノブを握り、力を入れる。

『あれ?開かない?』

扉は内側に開くはず。鉄製の扉だけど、さっき開けた時の感覚から、そんなに重いはずはないのだけど…。

もう一度力を込めてドアを開けようとするが、ピクリともしない。

『どうした?』

フッと背中に温かい気配がして、彼がすぐ後ろにいるのがわかる。

『ドアが開かないのだけど、この扉って、いつも鍵かかってないよね?』
『…かかってねえな』

不自然な近さから、彼の声が聞こえるので、嫌な予感がして上を見ると、案の定、彼が両方の手のひらで、扉を抑えている。

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