プレミアムステイは寝不足がベスト
プレミアムステイは寝不足がベスト




「ドラマとかでさぁ、旅館の女将が『よく眠れましたか?』って聞くの、野暮だと思う」

親友である彼女が、ふと思い立ったようにそう告げた。

「えー、どうして?」

私が尋ねると、彼女は軽く笑いながら答える。

「だって、せっかくいいホテルに来たのに大半を眠って過ごすなんて、もったいないと思わない?」

彼女の言葉に、私は目から鱗がポロポロ落ちるのを感じた。

私は30年近く生きてきて、今の今まで『よく眠れましたか?』という質問に疑問など抱いたことがなかったのだ。

「たしかに」

彼女は深く納得している私を見て、満足そうに「でしょ」と目を細めた。

私たちが今いるのは、都心にあるラグジュアリーなホテルのデラックスツインルームだ。

大きな窓からは都会の美しい夜景が一望できる。

ふわっふわの部屋着と名の知れたブランドのアメニティ、そしてホテルのラウンジでの飲み放題が付いたレディースプランを予約したのは2週間前だった。

お寝坊可能なレイトチェックアウトが無料で付けられたのも嬉しいサービスである。

女ふたり、混沌とした日常を忘れてセレブ気分を味わうだけのために、大枚をはたいてこんな部屋を取ったのだ。

ホテルにいられる十数時間を、ゆっくり眠って過ごすなんてもったいない。

寝る間を惜しんでこの非日常感を味わうべきだ。

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