夢がかなうまで

「この町に残ってもなんもないもんなぁ……。海があるばっかりや」
彼女はそう言って微笑んだ。
「いつかなぁ、……ほら、あのホテル」

日名子は駅前のホテルを指差した。バブルのときに建てられたホテルは町に不釣合いなほど豪奢で、町の若い女の子はみんなあのホテルで結婚式を挙げるのが夢だった。

「あのホテルに自分の稼いだお金で泊まる」

私は彼女の言葉に眉をあげた。

出張や旅行などで度々ホテルを使うようになってみれば、何も芸能人にならずともホテルに泊まるくらいのことはそれほど難しくない。しかし当時の私達にとって、あのホテルに泊まるというのはとんでもない贅沢の代名詞だった。

「ヒナちゃんやったら出来るよ」

私は本心からそう思った。
彼女はは満足そうに微笑んだ。

「カヨも一緒に泊まろう。一番いい部屋から海を見よう。きっときれいやで」

「うん。……じゃあさ、公平にしよう。私が先にお金持ちになってたら私が部屋を借りる。ヒナちゃんがお金持ちになってたらヒナちゃんが借りる。競争ね」

日名子と私は高校を卒業するとすぐに東京に出た。私は国立の大学へ、日名子は芸能事務所に所属した。
私は日々の忙しさにかまけ、次第に彼女を思い出すこともなくなっていった。


今夜なら日名子に会えるかもしれない。
もっと仲のいい子はたくさんいたのに、私は日名子の事を気にしていた。

彼女は夢を叶えたのか、それともまだ途中にいるのか。
例え夢を叶えられなかったとしても、彼女を責めるつもりも馬鹿にする気もなかった。ただ彼女の顔を見たかった。



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