今度は逆に、俺から行くから。
今度は逆に、俺から行くから。
豪華絢爛ではない、でもステータスのある都内ホテルのロビー。ここから1週間、俺の営業力が試されることになる。

世の中に営業三原則ってものは数あれど、俺の考える三原則はこうだ。

1.焦って売り込まない。
2.商品の価値を信じる。
3.最後まで気を抜かない。

一番大事なのは2番か。商品価値を本気で信じる。

今回の場合は、俺、中井裕之自身の価値だ。



お客のニーズがなければ売れないなんてのは、できない営業の言い訳だろう。

逆なんだよ。

必要なのは、売る側の本気。この商品が顧客を幸せに導くという確信だ。

ターゲット顧客は中島楓(かえで)。


俺が、楓を、幸せにする。

ん? これじゃプロポーズだな。

少し落ち着け、俺。




張り切りすぎて早く出てきてしまった。中途半端に時間がある。ホテルラウンジでコーヒーでも飲むか。

とふと見た先に、彼女がいた。

大きなソファに小さい身体を沈めて、全面の窓から空を見上げて微笑んでいる。

変わらない姿に思わず見惚れてから、踵を返した。違う、ここで出会うシナリオじゃない。

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