今度は逆に、俺から行くから。
帰りたそうな楓を捕まえて、予約していた階上のレストランで食事。世間話レベルなら明るく乗って来てくれる。

でもいよいよ話を切り出そうとする俺に、楓が態度を固くして、先回りする。

「これから行動起こすんだよね? いつも女の子の押しに流されちゃうから逆を行くってこと?」

言葉に詰まる。浮気のことを言ってるんだよな。

「今度はうまく行くといいね」と完全に他人事みたいに言われて、もう笑うしかない。そんなに都合よく行くかってことか。

「たまたま再会した元カノとよりを戻そうって話かと思ったの。そんなつまんない話じゃなくてよかった」

ああ、長谷がしゃべった? 偶然を装ってさりげなく口説きたかった俺の浅ましさを責めてる?

「普通に連絡したんじゃ会ってくれないだろ。有休取って自腹で来てるってところまで聞いた?」

もう仕方ないな。曝け出して笑ってもらおう。

「……なんの話?」

「え? この研修に来たの偶然じゃないって話」

「ええ?」

「聞いたんじゃないのか?」

なんかかみ合わないな。でも、まあいい。とにかく俺の気持ちは伝わってる。


「今度はもっとマメに連絡する。他の女の子とドライブに行ったりしない。楓が喜ぶデートをする」

浮気のことを謝って、俺を売り込む。ひたすら頭を下げるなんて、営業としては下策だがそれどころじゃない。
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