雪の華

私はいつもの様にベッドから起き上がる。

床に足を着いたところで「立てない…」

何これ…

「お母さん‼」

大きな声で呼んだ。

何度も…


やっと来たお母さんに

「何やってるの?」

「立てないの」

「えっ?」

「力が入らない…立てないの…」


お母さんは驚いて、急いでお父さんを連れてきた。


お父さんは私を抱っこしてリビングへ。


私にもわからない…。


だけど、しばらくしたら立てるようになって…

普通に歩けた。


「大丈夫みたい…」

「でも、心配だから病院行こ?」

そう言うお母さんに

「大丈夫。寝起きでボケてたのかも…」


お父さんとお母さんの心配そうな様子。

「大丈夫」そう言って家を出た。


「茉叶!おはよう‼」

「咲雪…唇どうしたの?」

「転んじゃって…」

「バカじゃん」

「でしょ?」

「咲雪もヘマするんだね?」

「しまくりだよ」

いつも通り。

何も変わらない。


授業開始の「起立‼」


………立てない………


後ろの席の子に「館川さん立たないの?」

「立てないの…」

不思議そうな顔をされた。


私の名字…たてかわ。


「館川…立てよ‼」

先生に注意された。

「立てないです…」

「どうした?」

近づいてくる先生に

「足に力が入らない…」

そう伝えた。


「他に具合悪いところは?」

「ないです」


だから…気にしなかった。

どうせ時間が立てばまた歩ける。


だけど…突発的に起こる「立てない…」


一週間、続いた。

見かねたお母さんと病院にいる。

待ち時間長そうだからケータイを見てた。

茉叶だ…

「大丈夫?」


「大丈夫‼」返信。


皇雅から返事はない。


既読になってはいた。

見てくれてたらそれでいい。


色々な検査をされた。

レントゲン…MRIとか…血液検査とか。

3時間以上かかった。


血液検査の結果はまだでない。

それ以外は問題ない。


「成長期の過程か、体が柔らかいせいかもしれませんね」


私は体が小さい頃から柔らかい。


それでこうなったりするもの?


いっぱいいるよ?

体が柔らかい人。


結局は「原因不明…」


突発的に起こる症状。


道端で立てなくなったら…


そう心配する両親。


血液検査も結局は異常なし。


結果を待つ1週間は長かった。


医師が言うには「柔軟な身体のせいかな…」


様子を見ていくしかない。


体育も見学。

茉叶はどこへ行くにも着いて来てくれた。


時々…立てなくなるから…


そんな生活の中…「通信に切り換えたら?」


お父さんとお母さんが話し合った結果。


「学校や道端でいつ立てなくなるかわからないから…」


「通信…?外…出られないじゃん…」


「今は体が大事だろ?事故に巻き込まれたら大変だし」


何日も話し合った。


あの日から1ヵ月。

原因がわからない突発的な症状。

立てなくなる回数も増えた。


寂しいけど…茉叶にも迷惑がかかるし…


「私…通信にする…」

「そうしなさい…その方がお母さんは安心だから」


私は高校を退学した。


クラスメートからメッセージが書かれた色紙。


茉叶と卒業したかった。


もう、着ることがない制服。


皇雅との思い出も学校の思い出も…


制服と共にクリーニングされて私の手へ戻ってきた。



そんな時…

元…お兄ちゃんからの電話。

「咲雪…仕事しない?」

「何の?元から仕事の紹介とか不安…」

「なんだよ…それ?」

「だって、元だよ‼」

「バーカ‼モデルの仕事‼」

「マジ?」

「ウェディングとか…着物とかのモデル…」

「そんなのあるの?」

「地下鉄のポスターとかあるじゃん…アレ」

「やりたい‼」

「先輩が探してて、お前の写メ見せたら紹介してって…今日、会える?」

「うん‼」


ワクワクする。

時間を余していたから。

少しお洒落して…お母さんに同伴してもらおうと思ったのに…お父さんまで来た。


いいのに…


待ち合わせは少しお洒落なレストラン。


緊張する。


雑誌の編集者みたいな人も来た。


「こういう者です」

名刺を受けとるお父さん。

最初はカチカチだった空気がほどけてきて…

両親から了承をもらった。


頻繁にある仕事じゃないから、勉強に差し支えないし気晴らしにもなる。


地域的な雑誌とか…広告に載る。

私の写真。


不思議だった。

自分じゃないみたい…。

プロの手で変わる私。


街を歩いても気づかれない。


夢だったモデル。

地域だっていい。


ドレス着たり、着物着たり、学校の広告…色々。


楽しい。


そんな毎日が新鮮で…輝いていた。


環境が変わると付き合う友達も変わる。


通信であった友達も…いっぱいできた。


高校生には変わりない。


時々、立てなくなる事もある…。


それでも…「成長期過ぎたら治るかもしれない」

その医師の言葉を信じて。


茉叶は私のポスターに気づいて連絡くれた。


「元気そうだね」って。

「元気だよ‼」

「今週末会える?」

「いいよ」

「泊まりに来てよ‼」

「お母さんに聞いてみる」

「わかった」


思い出の場所。

どんなに時間がたっても…

好き…

忘れられない…


環境が変わっても…変わらなかった想い。


決めたのに…

忘れられなかった…想い。
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