塩顔男子とバツイチ女子
10.二人のお正月
「ちょっと北斗!これ持って行きなさい」
スニーカーを履こうとした時、母に呼び止められた。
「何」
「何ってあんた、手ぶらで出かけるつもりなの」
「途中で何か買おうかなって思ってるけど」
年が明けて三日が経った。今日はこれからなつみさんの家に行く。いや、みすみさんの家って言った方が正しい。
「どこも混んでるわよ、正月なんて。とにかくコレ」
半ば押し付けられるようにして紙袋を受け取る。
「何これ」
「色々入ってる。貰い物もあるけど。つべこべ言わずに持って行く!失礼のないようにね」
「分かってる」
クリスマスの夜、俺はなつみさんに告白した。なつみさんはそれを受け入れて、俺を好きだと言ってくれた。当然母にはどうなったかなんて何も言っていない。
今回も母の勘は鋭くて事前に今日出かける事を言ったら、デートに違いないと危うく探られそうになった。とは言え気づかれる隙はあったと思う。正月の三が日は毎年シフトを入れないようにしているし、例年通り元旦に蒼と優斗と初詣に行く以外は家族で過ごしているから、母が気づくのも仕方ないけれど。
「よろしく伝えてね」
「うん」
付き合い始めたとは思っていないと思うけど、この口ぶりだと何か分かっていそうな…。
「北斗。間違っても手出したりしちゃダメよ」
「母ちゃんは俺をどう見てるの」
「ロールキャベツ男子。あ、もう古いか」
何も返さずスニーカーを履いて家を出た。今日もよく晴れて暖かい。
…ロールキャベツ男子って何?なつみさんは知ってるかな。後で聞いてみよう。