塩顔男子とバツイチ女子
圭の会心の一撃に母は余程ショックを受けたのか、目を見開いて口をパクパクさせている。圭がここまで言うなんて私は初めて見た。どちらかと言うと圭はノリが軽くて、でも波風を立てないように上手くすり抜けるタイプだから。弟だからなのか要領が良いところもある。
「圭、よく言った!芳恵ちゃんは何度言っても分からないからスカッとしたわ。それじゃ私は家に戻るわよ。なつみ、夕方から出かけちゃうからよろしく」
「うん」
「ばあちゃん、年寄りなのによく毎週毎週出かけるよね」
「年寄りは余計よ。女性にはもっと気を遣いなさい。でも見直したわ」
ばあちゃんは圭の頭をワシャワシャ撫で回して、さっさと帰ってしまった。圭はボサボサにされた頭を特に気にするでもなく、空になったマグカップにコーヒーを注いでいた。高校時代だったら、触んな!!って激怒しただろうな。触覚みたいな前髪に命懸けてたし。
「姉ちゃん良かったね」
「何が」
「生き甲斐が出来て。仕事ばっかして祥太と遊んで、そのうち祥太に相手にされなくなったらマジで孤独じゃん」
「…さっきはいい事言ってたのに、一気にグサッとくるわ」
母はヨロヨロと立ち上がると奥の和室に入って行った。さすがに堪えたのかな。圭は反抗期の時もさっきみたいにまくし立てるように何かを言う事はなくて、むしろ口をきかない、何を言ってもとにかくけむたがる、典型的な反抗期だったから。
「そのうち彼氏紹介してよ。身を呈して母ちゃんに反撃してやったんだから。後でやり返されるかも知れないんだぜ」
「圭も大人になったね。私よりずっとしっかりしてるし立派だよ」
「そりゃ、俺も父親だからな。姉ちゃん、後でメシ食いに行こう。もちろん奢りで」
身を呈した報酬ってわけね。これはもう文句なしに連れて行くしかない。
北斗くんは圭に会ったらどんな反応をするかなぁ。きっと圭がグイグイ踏み込んで行って、北斗くんがドン引きするかも知れないな。