塩顔男子とバツイチ女子
「芳恵ちゃんの気持ちも分からなくはないのよ。畑ばっかりの田舎で、噂話なんてすぐに広まっちゃうから。私もこの店をやるってなった時はまぁ身内にも周りにも色々言われたし、芳恵ちゃんも外から嫁いで来てるから何かと言われるのはキツかったと思う。だから今でも嫌がってるのね。でもなつみもホクちゃんも悪い事してるわけじゃないんだから。あとはなつみの問題」
人は他人の事に首を突っ込みたがる。噂話とか不幸があったりすると尚更。他人に興味が無い俺からしたら、もっと自分の事に時間を使えばいいのにって思うけど。誰かより自分の方が幸せ、自分の方が恵まれている。そう思いたいから好き放題話すのだろうか。
「なつみももういい歳なんだから、自分の事は自分できちんとしないと。年下のホクちゃんに心配されるようじゃ情けない」
「なつみさん、言わないから。愚痴も弱音も吐かないから溜め込んでるんじゃないかって」
「そうねぇ。昔からあまり言わないわね。私は、なつみはホクちゃんには言えると思ってるんだけど」
「どうしてですか」
みすみさんが挽いていたコーヒー豆の香ばしい匂いが広がって、自分でやった時とはまったく違った。今度みすみさんにやり方を教えてもらおうかな。
「ちょうどいいバランスだから、かな」
ちょうどいいバランス…?思わず首を傾げてしまうと、みすみさんは苦笑いしていた。
「何て言ったらいいのかしらねぇ。なつみはホクちゃんによって解放されるし、ホクちゃんもなつみといる事で新しい事を吸収していくんじゃないかしら。お互いに無いものを持ってるって大事な事よ。ホクちゃんと蒼くんだってそうじゃない。見事に正反対なのに仲良しだもんね」
「そう言われてみれば…」
なつみさんの事が絡むと俺はいつもと違う行動を取る。考えてみれば俺らしくもなく初めから積極的だったし、蒼にそそのかされてなつみさんを誘ったり。