塩顔男子とバツイチ女子
「今は、好きだという気持ちを大切にしないと。せっかく付き合い始めたんだから。ホクちゃんは先になつみの母親に会っちゃったから気にするだろうけど、親の事を考えるのなんて後からでじゅうぶん。親っていうのは手放しで賛成するか断固反対するか、大体最初はどちらかに分かれるのよ。初めからそれを気にするよりも、今二人で一緒にいる事を大切に」
「はい」
みすみさんに言われると素直にそれでいいんだと思ってしまう。不思議だけど最初の頃から説教くささなんて無くて、すっと入ってくる。
なつみさんのお母さんの事が気にならないと言えばそれは嘘になるけど、でも俺は今学生でなつみさんより年下だし、本当に何かあった時になつみさん守るには力が足りないかもしれない。だけど好きだから。
「歳取るとダメね。説教じみた事を言っちゃって」
「そんな事ないです」
ドアが開くカランカランというベルの音がして、冷たい風が吹き込んできた。
「あら。何ていうタイミング」
振り返ると長身で明るい茶髪の男性がいた。グレーのパーカーと黒いジョガーパンツ。野菜が入った小さめの段ボール箱を抱えている。
「ばあちゃん、コーヒー淹れて。外寒すぎる」
「寒くてもそれがあんたの仕事でしょうよ。まだ若いのに情けない」
「若くても寒いもんは寒いの。差別だから」
「いちいちうるさい」
男性はカウンターに箱をドサッと置いて、なぜだか一瞬目が合った。ちょっと面長の顔に二重のくっきりした目、髪の毛は所々くるくるしている。いつだったか蒼もかけていたような、おしゃれなパーマ。
「…もしかするとだけどさ、偶然?」
「すごい偶然ねぇ。いつも香ちゃんが来るのに」
「祥太がちょっと風邪気味なんだよ」
しょうた…祥太?
みすみさんがコーヒーカップを置いてくれて。
「あの、なつみさんの弟さんですか」
「そう。…えーっと、何だっけ…。…あ!北斗!」
みすみさんがこれ以上ないくらいの大きなため息を一つついた。