塩顔男子とバツイチ女子
「初対面でいきなり呼び捨てなんてやめてちょうだい。バカがバレる」
「だって名字なんて知らねーし。俺、市川圭。市川なつみの弟です」
圭さんは俺の隣に座ると右手を出してくれて。握手をした。
「相楽北斗です。なつみさんとお付き合いさせていただいています」
「突然だけど姉ちゃんのどこが好きなの?」
本当に不思議そうな顔で一言。どこが好き。
「色々ありますけど、それは全部後付けのような気がして。自分では気づいてませんでしたけど、一目惚れだったんで」
「ヒュー!マジか。へ~、一目惚れ。自分の直感を信じたわけだ。いいね!」
圭さんは身長こそ俺とそんなに変わらないものの、体格は歴然の差。畑仕事をやっているからかな?ガッチリまではいかないけど安定感がありそう。
「うちの母ちゃん、クソうるさかったでしょ?昔からあんな感じでさ。俺も昔はヤイヤイ言われまくってマジでウザかった。母ちゃんからしたら子どものまんまかも知れないけど俺らだってもう大人だし。親が色恋に突っ込んでくる事ほどウザい事ねーよな」
「そういえば、あんたも相当首突っ込まれたわね」
みすみさんは豆を挽く手を止めて、思い出したようにアハハハと笑っている。
「俺の嫁さん、高校からの付き合いなの。香って言うんだけど。高一からだからもう十年。二年前に結婚した。俺、高校時代はとんがってて。悪い事はしてないけど、まぁ反抗期も重なってて。当然、彼女の事なんか絶対親に言わないじゃん。北斗は言う?」
「言わないです。高校時代に付き合ってた人の事は俺の友達が母親にバラしましたけど」
圭さんがごく当たり前の事のように北斗って呼ぶから。何の違和感もなかった。何だか距離の縮め方が蒼と似てるような気がする。どんどん踏み込まれているのに嫌な気持ちにならない。なつみさんの弟さんとか、そういうのは抜きにして。