塩顔男子とバツイチ女子
「ええ。私が嫁いで来た時からだから、もう五十年以上かしら。歳がバレちゃうわね。なつみちゃんや、なつみちゃんの弟の圭くんが赤ちゃんの時はよく抱っこしたし、おむつを替えてあげた事もあるわ。それが今では私がなつみちゃんにお世話してもらってる。不思議ね」
「へ~。なつみさんが生まれた時から知ってるんすね。北斗、山城さんに聞けばなつみさんの事は何でも分かるじゃん」
「今はそういう話じゃないよ。俺らは手伝いに来てるんだから」
なつみさんの小さい頃の話、聞いてみたいけど。それはまたの機会に。みすみさんだって教えてくれるだろうから。
「北斗くん、前に会った時よりも柔らかくなったわねぇ」
「あ、やっぱそう思います?お前、ポーカーフェイスがウリなのに最近崩れてきてんね」
「無表情はウリじゃない」
ポーカーフェイスなんてかっこいいものじゃなくて、ただ感情が出ないだけ。しかもウリじゃないし。ていうか柔らかくなったなんて自分では分からなかった。
「別に無表情だっていいのよ。相手にちゃんと感情が伝わっていれば、それでじゅうぶんじゃない?北斗くんはそこまで無表情じゃないわ。人は誰と一緒にいるかで変わるし、北斗くんとなつみちゃんだって相乗効果なのよ。きっと」
「山城さん、すごっ。何か見透かされそう」
「能瀬くんはとても明るいけど、ちょっとシャイかしら?それに、本当に好きな子には強くいけないっていうか…尻に敷かれそうね」
山城さんはウフフと笑って、蒼は言い当てられた事にびっくりしていた。実際、玉木と一緒にいる蒼は強く出ないし、玉木の方が若干上にいるような感じがする。
「マジ当たってます…山城さん、エスパー?」
「年の功っていうやつよ。でも一度くらいエスパーになってみたいわね」
窓から外を見ると、ちょうどデイサービスの送迎車が止まっていた。なつみさんも時々手伝っているって言ってたっけ。そういえばなつみさん、どうしたかな。