塩顔男子とバツイチ女子
「そんなのあった?」
「ありますよ~。籐の箱があるでしょ。そこがおやつケースだって、佐藤さんが言ってたじゃない」
「そうだったかね」
暴れられなくて助かった…。佐藤さんと一緒にエレベーターに乗り、部屋がある三階へ向かう。三~四階は女性、五階は男性に分かれている。
「お煎餅とかクッキーとか、いつも娘さんがいっぱい入れてくれるでしょ」
「あんた、子どもは何歳?」
「独身です。甥っ子はいるけど」
「あら~。それじゃいい男見つけて、さっさと嫁にいかないと」
「そうねぇ。でもこればっかりは縁だからね」
調子が良い時は私の名前もちゃんと覚えていて、独身でバツイチな事も知っている。でも今日は全部ダメみたい。人間て不思議だな。
佐藤さんの部屋に着くと、棚の中から籐の箱を出して渡した。
「あら、いっぱい入ってる」
「ね。下行って食べましょう。お茶もあるし。すぐお昼になっちゃうけど」
「子どもに持って行く?」
「甥っ子ね。まだ小さいから食べられないな」
再びエレベーターに乗って下に行くと、蒼くんが車椅子から椅子へと移す介助をしてくれていた。腰が少し浮いているから傷めそうだけど、上手く出来ている。
「佐藤さん、あの人がボランティアの能瀬くん」
「あの頭はどうやって染めるの」
「やった事ないから分からないけど…一度金髪にしてから染めるのかな?あともう一人、黒髪の男の子がいるんだけど」
見回しても北斗くんはいない。どこか手伝いに行ってるのかな。佐藤さんに座ってもらうと、マグカップにほうじ茶を注ぐ。
「能瀬くん」
「あ、なつみさん。見つかったんですか?」
「うん。能瀬くん、手が空いてたらちょっと佐藤さんと一緒にいてもらいたいんだけど」