塩顔男子とバツイチ女子


北斗くんは自分の世界をきちんと持っている人だし、基本的に一人が好き。私も自分一人の時間は好きだし、仕事に追われる毎日の中で少しでもゆっくり好きな事をやりたい。


「あんたは痛い目に遭って出戻って来たでしょ。向こうは大学生だし、何があるか分からないのよ」

「分かってる。歳も離れてるし、北斗くんは来年就職だし。生活だけ見ると正反対だもん。私はバツイチで、北斗くんは学生。将来の話なんて何もしてない。付き合い始めたばかりだしね。…離婚は私も落ち度があったと思う。だからあんな結果になったんだし。自分では順風満帆だと思ってたんだけどね」

「夫婦は他人同士だもん。ずっと一緒にいられるって事がすごいよね」


香ちゃんはミカンの皮を剥きながら事もなげに言った。本当にそう。他人同士が一緒に暮らして、子どもが出来て、歳を取っても一緒にいる…当たり前だと思っていたそれはとてつもなくすごい事に感じる。


「この前、圭に言われた事は正直ショックだった。自分が本当にそう思ってたのかも知れないって気づいたわ」

「お姉ちゃん、圭は何言ってたの?」

「さっき言った思わぬヒートアップの件だと思う…」


離婚が恥ずかしいなんていつの時代だ、そう思うのは姉ちゃんを恥ずかしいと思ってるからじゃないのか?俺はそれが一番恥ずかしいと思うけど、と。圭がまくし立てるようにして母に言い放った。


「今もそうだけど、仕事にかまけちゃって。愛想尽かされるよなぁって今なら思う。離婚しようって言われた時は本当に頭真っ白で奈落の底に落ちるような気持ちだったけど。いい歳して出戻って来てごめん。でもあの街ではもう暮らしたくなかった」


元夫とその相手とどこかで偶然会ってしまうかも知れないような場所には暮らしたくなかった。いつまでもばあちゃんに甘えるわけにもいかないけど、昔はどこかで窮屈に感じていた地元が今は少し好き。
< 166 / 191 >

この作品をシェア

pagetop