塩顔男子とバツイチ女子
「一目惚れかぁ」
「自分の事だろ。何でそんな呑気なんだよ。鈍感。でもちょうどいいじゃん、玉木を追っ払えるし、大学入ってから彼女もいない、合コンも行かない、華がない北斗がようやく縁に恵まれて」
「華がなくて悪かったな」
高三の時に付き合っていた彼女とは半年程で別れてしまった。どうして別れたのかはもう憶えてないけど。
「俺も久々にみすみさんのとこ行くかな~。お姉さんの話聞きたいし」
「ホントにミーハーだな」
「北斗が鈍感だから気にしてやってんだろ。間違いなくその瞬間に恋に落ちてるのに、自分で気づいてねーんだから」
あの瞬間の事は自分でもよく分かってない。なつみさんから目が離せなかったのは事実だし、「…いる」と呟いた事も憶えている。みすみさんが、お砂糖がいるのかと聞いた事も。
「なつみさんだっけ?彼氏いんの?」
「知らないよ。そんな込み入った事、何も話してないし。名前と年齢しか知らない。あ、あと介護職だってみすみさんが」
市川なつみ、二十八歳。背は低い。なつみさんの頭のてっぺんが俺の肩に届くくらいだったかな。
「…北斗。お前さ、マジそのまんま歳取って死んでいくよ。恋しろよ」
しようと思ってするもんじゃないだろ。俺だって彼女が欲しくないわけじゃないけど、自分の好きな事をやって死んでいく人はたくさんいるし、それも一つの自由だ。
蒼はまだ考えが足りないな。
…恋をしろ、か。