塩顔男子とバツイチ女子
私は結局ビールを買って。若い男の子と居合わせているというのに色気の欠片もない。
相楽くんはミネラルウォーターを買うというので、この前グリーンスムージーを貰ったお礼に私が買った。
「何かすいません。買ってもらっちゃって」
「ううん。この前の、美味しかったから。ありがとう。それよりホントにいいの?駅まで送らなくて。寒いのに」
車のエンジンをかける。
駅までは家と反対方向だけど、どうせ車だし。この寒い中10分以上も歩くのは可哀想だ。
「なつみさん、疲れてるんだから。早く家帰って休んでください。明日も仕事でしょ?俺は男だし、大丈夫です」
疲れてるのは相楽くんだって同じだろうに。
私なんかの事を気遣ってくれて、優しいんだなぁ…。
「それと」
「ん?」
運転席に座ろうとした時に相楽くんが言うから振り返ると、彼はまたいつもの落ちついた――感情が読めない表情になっていて。
だから私は座るのをやめて、相楽くんの前に立つ。
「どうしたの?冷えちゃうよ」
「…北斗でいいって、前も言ったんですけど。身近な人に名字で呼ばれるのなんて、むず痒くて」
あ、その事か…。この歳になっても異性を名前で呼ぶっていうのは、何か気恥ずかしくて。
相楽くんは弟よりも年下だし、弟に接するような感じでいいのかも知れないけど、それも何だか違うような気がして。