塩顔男子とバツイチ女子


もうインフルエンザや胃腸炎にかかる人が出てるもんなぁ。うちの施設でも毎年発症するけど、それはもう地獄絵図。職員の数も減るし。


「祥太、大丈夫なの?香ちゃんもだけど」

「大丈夫よ。熱はないし元気もある。風邪の引き始めってところね。香ちゃんも元気。もう、喋ってる時間もったいないから早く来てちょうだい」

「分かった…。とりあえずこれから起きるから」


コッソリやれと言われた最初の頃が懐かしい。今なんてこうしてコキ使われるもん。出戻っては来たけど、住んでるのはばあちゃんの家だし、自分で働いて生活費もちゃんと払ってる。住居以外は自活してるんだけどな。母からしたらそれでは自活じゃないらしい。
私にだけ攻撃的すぎない?圭だって実家暮らしなのに。家庭を持ってるから別なのだろうか。


「なるべく早くね」

「…分かった」


通話を終えると、部屋の中はしんと静まり返っていて、母の声がいかに大きかったのかを実感する。


もう化粧はいいや。どうせ顔は浮腫んでいるだろうし、コンタクトも面倒臭い。すっぴんと眼鏡と動きやすい服。歩いて五分だし。
だけどそういう気持ちが、女からおばさんに移り変わっていく瞬間なのかな。

とりあえず支度しよう。早く行かないと母の小言が増えそうだ。
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