塩顔男子とバツイチ女子
重苦しい空気を変えるように、カランカラン、とベルの音がして女性が入ってきた。
「あら、珍しい。どうしたの」
「休みだったのに急遽夜勤になっちゃって」
「あんた、そんなに働いてたら死ぬわよ。たまには断わる事も大事なんじゃないの」
「それが出来たらいいけど、そうもいかないじゃん。人手が足りないんだから。夜食用にサンドイッチ作ってもらいたいんだけどな~」
「分かった分かった。ちょっと待ってて」
ベージュのパンツと淡いピンクのポロシャツ、それから黒いパーカーと白いスニーカー。
「お待たせ。ホクちゃんのコーヒーね」
コーヒーカップが置かれた、のに。俺はまだその人を見ている。吸い寄せられるような不思議な感覚。
少し茶色い髪の毛は胸の辺りまであって、ちょっと丸い目は猫みたい。耳には小さな星のピアスがついている。
「…いる」
「何が?お砂糖?」
俺の、ほとんど聞こえないような声をみすみさんがキャッチした。
玉木を見ると、いつの間にかカプチーノの注がれたカップを手にしていた。冷ましながら少しずつ飲んでいる。
「玉木。俺の事はもう本当に諦めてほしい」
「えっ」
カップを持ったまま、玉木は瞬き一つしない。
「この人。俺の好きな人」
俺から少し離れた席に座っているその人を背中越しに指さした。
「…はあっ?!」
「あらまぁ」
目を丸くして敵意剥き出し…のような表情をしている玉木と、ニコニコして鼻唄を歌いながらサンドイッチを作り始めているみすみさん。
それからその人が振り向いた。