塩顔男子とバツイチ女子
そもそも始まりは一週間前。香ちゃんから土曜日に圭と一緒に共通の友人の結婚式に出たいから、祥太を頼めないかと連絡があった。
畑仕事を手伝わされるより全然良いし、何だかんだ母も家に戻ってくるだろうと踏んでいた。
ところが急にお通夜が入ったのだ。母の昔からの友人のお母さんが亡くなったらしい。斎場が隣町だから早めに出ないと間に合わないし、何より憔悴しているであろう友人の元へ少しでも早く――という思いがあるようだ。
「あんた、夕飯は自分でやってね。祥太のは香ちゃんが作ってあるけど」
「分かってるって」
「それからお父さん、夕方から出かけるから」
「えっ、どこに」
そんな事、一言も聞いてないんだけど…。
「早めの忘年会だって。いつものメンバーで」
「じゃあ私、一日がかりじゃん」
結婚式に披露宴…たぶんその後に二次会とか行くだろうし。両親共に帰りが遅くなるって事は寝かしつけまでが私の仕事か。
「出戻ってるんだからそれくらいはね。それにお通夜は急に決まる事なんだから、誰にもどうしようも出来ないし。お義母さんに来てもらえば?」
「無理。ばあちゃん出かけてるもん。友達と観劇して食事してくるって」
「あら。まあ、なつみも育児の予行練習になっていいじゃない。じゃあ、よろしくね。行ってきます」
今のは職場だったら完璧セクハラだ。いや、パワハラだな。好きで出戻ってきたわけじゃないし、自分の子どもを育てる予定すらない。
祥太が私の腕を叩くので顔を見ると、離乳食を指さしていた。食べ終わったら散歩にでも行こうかな。