塩顔男子とバツイチ女子
「あー…そういえば俺、ほとんど遊びに行かなかったもんなぁ。受験勉強もあったし、バイトして稼ぎたかったし、基本的に一人が好きだし」
そう考えてみれば今の俺、なつみさんとちょこちょこ出かけてる気がする。とは言ってもまだ二回だけど。
「ていうか俺、何で母ちゃんに恋愛相談みたいな事してんの?しかも具合が悪い時に。普通、大学生の息子が母親にこんな話する?男って話さない気がするんだけど」
高校時代に俺がフラれた理由も蒼がバラしてるくらいだし。そもそも彼女が出来た事さえ母には言っていなかった。それなのに当時家に遊びに来た蒼がバラしたんだ。
「世間一般はどうか分からないけど、少なくとも今私の目の前に一人いる。まぁ、世の中は広いから絶対なんて事は一つも無いのよ。母親と何でも話せる息子だって、どこかにはいるだろうし。北斗は無理だけど」
もっともな事を言う。確かにそうだけど。どこかには母親に恋愛相談する息子がいるだろうし、一緒に出かけたりする人もたくさんいると思う。実際、蒼はお母さんと仲が良くて何でも話してるみたいだし。
「風邪が治ったらデートにでも誘えば?あんたが恋かどうか考え込むうちに、その人に誰かいい人が現れるかも知れないわよ。そうなってからじゃ遅いんだから。ほんとにねぇ、そのまま死んでいくような気がしてならない」
「…ぐうの音も出ない」
しかも蒼と同じような事を言い放った。今のまま一人の時間を楽しんで死んでいくのも、それはそれで別に悪くないと思うんだけど。でもなつみさんが隣にいたらまた違う世界が広がるような気がする。
母が洗濯物を取り込むと言うので時計を見ると十四時を過ぎていた。俺、ずいぶん寝てたんだな…。食事をしたらなつみさんに連絡してみよう。今頃何してるのかな。