塩顔男子とバツイチ女子


“お願い?”


普通の風邪なら良かった…。悪化せずに治るといいんだけど。


“風邪が治ったらデートしてくれませんか?”


「えっ」


まったく予想もしていなかったお願いにビックリして、無意識に息を止めてしまっていた。おまけに思考まで止まってしまってしばらく画面を見つめていると、北斗くんからメッセージが入った。


“…なつみさん、引いてる?”


北斗くんのちょっと不安そうな表情とか声色が浮かぶ。実際には見た事のない表情だけど。


“引いてない!ビックリしちゃって。デートなんて言葉自体、久しく使ってないから”

“デートしてくれますか?”

“もちろん。風邪悪化しないように気をつけて。ちゃんと暖かくして寝るんだよ。水分補給もしっかりね”


送ってから、口うるさいだろうかと心配になる。職業病というか…日頃やっている事でも相手が違えば迷惑になる事もあるわけで。


“なつみさんがいてくれたらいいのになぁ…”


自分の顔が緩むのが分かる。いつも冷静でちょっとクールでしっかりしている北斗くんが甘えてくれているような気がして。


“俺、なつみさんに全然自分の事を話してないでしょ。大学と友達と玉木の事と、あとバイトの事くらいで…。だからそういう事、ちゃんと話したいなって思った”


二人で食事に行った時、大半は私の話だった。離婚して出戻ってきた事や仕事、それから家族の話…北斗くんはきちんと聞いてくれるからつい話が止まらなくて。

北斗くんの話を聞きたいと思っていたけれど、言ってもいいのかどうかいつも迷っていた。そんなに会ったり話したりしていない時から、彼が踏み込まれすぎる事が苦手であろうと感じていたから。
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