塩顔男子とバツイチ女子
「ホクちゃん痩せたわねぇ。可哀想に」
「やっと少し食べれるようになってきたんですけど。どうにも食欲が戻らなくて」
みすみさんのお店に来るのも久しぶりだ。体調不良で体重が3キロ落ちていた。自分ではまったく見た目に変化がないと思っていたけど、みすみさんには頬の肉が無くなったと言われた。
「なつみの所もすごいらしいのよ、胃腸炎が。明日まで夜勤で、休みも無いって言ってたし」
「なつみさんも体調崩さないといいんですけど」
「本当よねぇ。そうなったらもう家中に広がるわ」
今日は雨がしとしと降っていて一段と寒い。こんな天気だからなのか店内には俺しかいない。売り上げには響くだろうけど、都合が良かった。
「ところでホクちゃん、なつみが好きなの?」
「…多分。自分ではよく分かってないけど、蒼には一目惚れだろって言われて。鈍感だとも言われました」
「なつみも鈍感なのよ。二人ともそうじゃ埒が明かないわね。この前、私言ったじゃない。押しの一手って」
みすみさんは呆れたようにため息をついた。
「なつみが鈍感だから、好きならグイグイ行きなさいって意味だったのよ」
「なるほど」
そういう事だったのか…。
カランカランと音がして振り返ると、コートが少し濡れた玉木が入ってきた。
「ごめん、こんな雨の日に」
「ううん。急いで来たからちょっと濡れただけ」
玉木はハンドタオルでコートやトートバッグを拭いている。
蒼に玉木と話してみればと言われたあの日、玉木に予定を聞いてもらった。玉木は電話口でかなりびっくりしていたらしく、蒼はスゲーうるさかったと怒りながらも俺の代わりにやり取りしてくれた。