塩顔男子とバツイチ女子
9.クリスマスの夜
「…なつみ、何だか老けたわね」
「やっぱり?…はぁ~」
ばあちゃんと一緒に食事をするのも久しぶりだった。
今日は夜勤明けで、ようやく地獄のような一週間が終わった。時間通りには上がれなくて、家に帰ってきたのは朝十時過ぎ。それからお風呂に入ってすぐに眠った。目が覚めたら外は真っ暗で台所からはリズミカルな包丁の音がしていた。
肉じゃがにハタハタの一夜干し、さつまいもとほうれん草のお味噌汁、それから鶏肉とゴボウの炊き込みご飯。
ゆっくり食べられるのは久しぶりだった。
「あんた、もうすぐクリスマスだけどどうするの」
「…クリスマス」
この忙しさですっかり忘れていたけれど、そういえば縁側には私の背より少し小さいくらいのクリスマスツリーがいつの間にか飾られていて。玄関にはリースもあったような。
「嫌ねぇ。明後日クリスマスじゃない。デートしないの?」
「誰と」
「誰ってホクちゃん以外に誰かいるの?」
北斗くんの事か。…ん?北斗くん?…デート?
「あっ、忘れてた!」
「食事中に大声出すんじゃない」
「ごめん」
北斗くんから風邪が治ったらデートしてほしいと誘われていて。その後に私が忙しくなったから、しばらく会えないと連絡したのが最後。すっかり忘れてた。
ばあちゃんに手短に話すと呆れたようにため息をつかれ…。
「忙しいのは分かるわよ。実際この一週間すごかったもの。同じ家にいるのにまったく顔見ない日もあったし。でも男の子からの誘いを忘れてるってもう、あんた終わりよ」
「自分でもそう思う」
私もマメな性格じゃないし、何でもないような事で連絡するのも気が引けてしまって。北斗くんが私の愚痴でもちゃんと聞いてくれると分かっているからこそ。
言い訳にしかならないけれど、本当にめちゃくちゃな一週間だった。