塩顔男子とバツイチ女子
「ひっそりやれって事ね」
コキ使われない事が一番ありがたい。どうせ丸一日、睡眠で潰れるだろうし出歩かない事は簡単だ。
「あんたが離婚した事は言ってないから。正月なんてただでさえ面倒なのに、もうこれ以上ゴタゴタした事になりたくない」
「姉ちゃん毎年来てんだから、それこそ何か言われるんじゃねーの」
「仕事が忙しいって事にする。バレない限りは言わない。圭も余計な事は言わないでよ」
私だって言われない方が助かる。浮気された挙句、相手が妊娠して離婚になったなんて…。酒のツマミには最高すぎる出来事だし、ヤイヤイ言われてまた肩身の狭い気持ちになるのも嫌だし。
「分かってるけど。そのうち姉ちゃんが再婚とかなったらどうすんの」
「それはその時」
「香ちゃん、お正月大変だね」
コソッと話しかけると、香ちゃんは心底憂鬱そうな顔で頷いた。昔から二日と三日は親戚が集まるから、もてなすだけでも大変なのだ。
結婚していた時は二日に義両親の所へ挨拶に行って、三日にこっちへ戻って来ていた。
「正直、お正月終わるとグッタリしちゃう。お姉ちゃんいないの辛い。いてくれたら合間に話せるから息抜けるけど」
「ごめんね、やらかしちゃった姉で」
「離婚はお姉ちゃんのせいじゃないよ」
初詣くらいは行きたいけど、私の姿を見られたらマズいし。そもそもお正月の激混みの中、一人で初詣に行く勇気はない。正月明けでいいかな…。ばあちゃんもいないし、久しぶりに手の込んだ料理でも作って美味しいお酒を買って自分を労わろうか。
たまには自分にお金をかけるのも悪くないかも知れない。独身なんだから自分にお金をかけたっていいのだ。