悪役ヒロインは恋してる
「あんたが、一年女子仕切ってるっていう、阿佐ヶ谷柚姫?」

私の隣の席にドサリと腰掛けてきたのは、女子バスケ部部長だった。



四月最終日曜日。

この日、女子バスケ部部長である千葉春乃先輩の主催で懇親会が行われていた。

参加者は男女バスケ部の全女子部員。

つまり、男子バスケ部のマネージャーである私にも参加資格はある。

私はこの1ヶ月で完全に一年女子を掌握し、伶音くんに近づく子が居なくなるよう働きかけてきた。

そして、その狙いは他学年の知るところでもあると思う。

だが先輩達はまだ、私を脅威として見てはいないだろう。

だが、伶音くんを完全に独占するためには、先輩にも粉をかける必要がある。

だから、同じ部活で伶音くんと関わることになるバスケ部女子部員を今日、牽制しなくてはならないのだ。

20人いる先輩のうちの5人は既に私の手のものだ。

先日別の機会で『仲良くなって』きたり、中学のコネを使ったりした。

あと15人。

私は自分の指先を見つめながら、今後の作戦を頭の中で整理していた。

すると。

「あんたが一年女子仕切ってるっていう、阿佐ヶ谷柚姫?」

私の隣の席にドサリと腰掛けてきたのは、女子バスケ部部長だった。

乱雑に切られたショートボブ、気の強そうな切れ長の目。

自信満々に弧を描く薄い唇。

私は慌てて立ち上がると、礼をした。

「私が、阿佐ヶ谷です。ですが、一年女子を仕切っているというのは誤解でーーーー」

「いいよ、隠さなくても」

ゆっくりと頭を上げて、先輩を見る。

鳶色の瞳と目が合った。

「全部知ってるし、聞いてる」

頭の中で、取り巻きがもたらしたデータと目の前の彼女とを必死に照合していた。

「ええと……」

懇親会は、学校の近所のファミリーレストランの一角を貸し切って行われていた。

私の周りでも、先輩が一年生と会話を交わしている。

私は辺りに視線をさまよわせながら、正解を探す。

「確か、先輩には1年に妹さんが」

何日か前に理沙が口にしていた情報を思い出す。

千葉先輩は頷いた。

「名前は千葉冬希」

名前に覚えがある気がした。

「あんたと同じクラス」

何かがかちり、とハマる。

記憶の中に浮かぶ、中途半端な金髪。

下駄箱での一件。

入学式の翌日。

「伶音くんと、同じ中学出身の……」

ごくり、と喉を鳴らす。

先輩の視線が胸に突き刺さるような気がした。

あ、これ、私、ダメかも……。
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