悪役ヒロインは恋してる
体育祭の種目は徒競走、障害物競走、借り物競走、二人三脚、騎馬戦、綱引き、棒引き、玉入れ、クラス対抗リレーの9つだ。

基本的に最低でも一人一種目は出場しなくてはならないらしい。

考え込むまでもなく、私の目はある種目に釘付けになっていた。

「ーーーーで、借り物競走はこんな感じ。それで、二人三脚はクラスから男女1組出場して、全学年で100mを競う感じね。騎馬戦はーーーー」

千駄ヶ谷くんが競技の説明をする声に耳を傾ける。

男女1組。

これは、是非伶音くんと出場したい!

斜め前の理沙に目配せする。

目が合った理沙は、ニヤニヤと笑っていた。

怪訝に思い眉をひそめると、その直後ポケットの中のスマホが震えた。

画面の通知を確認すると。

〈二人三脚で1位を取ったペアは、結ばれるらしいよ!〉

思わず息を飲んで画面を二度見した。

理沙に視線を送ると、彼女は任せておけ、とばかりに頷いた。

なんだか楽しそうだ。

「ーーーーで、種目なんだけど、クラスで男女1組ずつってきまってる競技ーーーー二人三脚とリレーから決めてきます」

千駄ヶ谷くんが宣言すると、私は姿勢を正して次の言葉を待った。

絶対に伶音くんとペアになって一位にならなければ。

「二人三脚は例年カップルで出場する流れみたいだけど、まだ入学してすぐだからカップルもいないだろうし、くじで適当にーーーー」

「はいっ! 中野くんと阿佐ヶ谷さんを推薦します!」

勢いよく立ち上がったのは、理沙ではなかった。

正直私は名前も知らない。

怪訝に思い、理沙を見ると、バチンとウインクを送ってきた。

理沙の差金か。

今私と伶音くんを推薦した子を取り巻きに加えた覚えはないし、多分理沙の個人的なコネクションなのだろう。

私と仲のいい理沙が推薦しては、不審に思われる可能性があるから。

なるほど、考えている。

「伶音と阿佐ヶ谷? なんで? べつにこいつら……」

「だって2人は部活も一緒でめっちゃ仲良さそうだから! うちのクラスでカップルっていったらこのふたりじゃん!」

勢いよくまくし立てる彼女は、どこか青ざめている。

理沙になにか弱みでも握られているのだろうか。

傍目から見ても必死さが伝わってくる。

どんな理由で理沙に従っているのかは知らないが、そのうちお礼でもしよう。

「他に推薦がなかったら、それでいいと思うけど。伶音、阿佐ヶ谷、どう?」

千駄ヶ谷くんが私と伶音くんに視線を向けてくる。

私は嬉しそうな声になるのを必死に抑え、極力冷静な外面を保ちながら言った。

「私はどちらでも構わないわ」

興味無いふうを装って。

そして、伶音くんの答えは。

「俺もいいよ」

席から飛び上がって踊りそうになる衝動を必死に堪える。

顔がニマニマと緩むのを必死に抑え、でも足りなくて、口元を手で隠した。

伶音くんはきっとなんの意図もないだろうし、ジンクスも知らない筈だ。

だけど、それでも、嬉しかった。

私を受け入れてくれたみたいで。

私と仲がいいことを肯定してくれたみたいで。

クラス公認のカップルになれたみたいで。

口元を必死に引き締めて、チラリと隣を伺い見ると。

「頑張ろうね、柚姫」

優しげに微笑む伶音くんが、そこにいた。

私はつい、口元の制御を手放し。

満面の笑みを、彼に返した。
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