悪役ヒロインは恋してる
入学式が終わって教室に戻ってくる。

幸運なことに、私と彼は同じクラスだった。

担任が祝辞と連絡事項を述べる間、私はチラチラと中野くんに視線を送る。

彼はほんの少し退屈そうに、頬杖をついていた。

どこかまだあどけない表情に、胸が高鳴る。

私を知ってもらいたい。

私の名前を呼んでほしい。

担任の解散の合図を聞くと、私はすかさず立ち上がり、迷わず一歩踏み出した。

しかし。

「中野くん! 代表挨拶めっちゃかっこよかったよ」

「高校も同じクラスだね! よろしくー」

「中野くん初めまして、代表挨拶素敵だったから話しかけてみたくてーーーー」

私が彼の元に向かうより早く、中野くんの周りには女子の人だかりができていた。

中学時代から彼を知っていた子や、私と同様壇上の彼に興味を持った子達だろう。

どうやら一歩遅れたらしい。

これから話しかけたところで、私を印象づけることは出来ないだろう。

挨拶したところで、すぐに忘れられてしまう。

「柚姫、どうしたの?」

「理沙……」

私が唇をかんでいると、中学時代の取り巻きの1人、小岩理沙が声をかけてきた。

ふわふわしたライトブラウンの髪が可愛らしい。

中学時代、私の腹心という感じの立ち回りだった彼女の姿を目にして、私は早速自分を中心とした権力構造を作り始めることを決意した。

「理沙、私の『お友達』を集めてくださる?」

「え?」

「いますぐに」

目が合った瞬間、理沙はにやりと笑った。

彼女は面白いことが大好きだ。

新学期早々、私は彼女に娯楽を提供するのだ。

張り切って働いてくれるだろう。
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