悪役ヒロインは恋してる
伶音君のファンとの『お話』を終え、集まってくれた取り巻きたちにお礼を言って解散する。
新学期早々面倒なことになった。
私が好きになった人は、想像以上に人気者らしい。
中学時代から彼のファンだった彼女たちからしてみれば、ぽっと出の新人にずっと憧れていた王子様を取られてさぞ悔しいことだろう。
気持ちが理解できるからといって、譲る気は一切ないけど。
入学して二日目でこれだけの人に睨まれるのだから、今後も地盤をしっかり固めておかなければ足元をすくわれるかも知れない。
大変な高校生活が始まったなあ。
そんなことを考えながら理沙と連れ立って教室に向かうと、既に伶音君の周りには女子の人だかりができていた。
昨日の中学から一緒だった子達とはまた別みたいだ。
私同様、入学してから彼のことを好きになった人たちだろう。
「柚姫、どうするの」
「もちろん、私の前で勝手な真似はさせないわ」
理沙に問われ、当然とばかりに答えた。
迷わず集団に近づいてゆく。
すると、伶音君に群がっている女子の一人が、私と同じ中学出身だったことに気がついた。
特に関わりのない子だったけれど、これを利用しない手はない。
「ちょっと、どいてくれる?」
腕を組んで彼女に冷たい視線を送りながら言うと、振り向いたその子は何事か文句を言おうとして、その相手が私であることに気が付き、慌てて口をつぐんだ。
「あ……阿佐ヶ谷さん……」
「聞こえなかったかしら。どいてって言ってるの」
「はい……すみません」
私が強気で指図すると、彼女は素直に一歩下がった。
彼女があまりにも委縮しているものだから、ただならぬものを感じたのか、別の何人かも私にその場を譲る。
こうして私は難なく伶音君の前に進み出ることができたのだった。
「あ、柚姫。おはよ」
「おはよう、伶音君」
お互いの名前を呼びあう私たちに、何人かが眉を顰め、何人かが羨ましそうな顔をした。
でもそんなことは気にしない。
今はただ、私に人懐っこい笑顔を向けてくれる彼に釘付けだ。
「ねえ、今日、学校お昼まででしょう。もしよかったら、一緒にランチしない?」
明るい笑みを浮かべながら、用意していたセリフを述べる。
学校の中では落ち着いて会話もできないし、少しでも彼に近づきたかった。
伶音君はにこにこと無邪気に微笑みながら、うなずいた。
「うん、いいよ」
その瞬間、様子を窺うように静観していた少女達の間から、ブーイングが沸き起こる。
「いいなー、中野君とお昼」
「ねえ、中野君。私も一緒に行ってもいい?」
「私も私も」
伶音君は、女子の圧倒的な声量に押されていた。
「あ……じゃあ、柚姫、せっかくだからみんなで――――」
「だーめ」
伶音君、どうしてこんなに人がいいの?
女の子からデートに誘われたのに、みんなで遊ぶ会にしようとするなんて。
伶音君のある意味冷めた対応に少しだけ悔しさを感じた。
でも、笑顔は崩さない。
「私、伶音君と二人だけで、話したいことがあるの」
「え? そっか、わかった。そういうことだから、みんな、ごめんね」
ちょっとだけ甘えた声でそういうと、彼は素直にうなずいた。
再び起こるブーイングに、ごめんね、ごめんね、と伶音君はひたすら謝る。
素直すぎるがゆえに、無神経というか、鈍感というか。
出会って二日目なんだから当たり前だけど、全く女として見られてないのが切ない。
こればっかりは権力でどうなるものでもないんだから、正攻法で進んでゆくほかない。
あまり強引に進めすぎてもダメだけど、いつまでも全く意識されないのもつらい。
今日のランチで、ちょっとでも関係が変わりますように。
新学期早々面倒なことになった。
私が好きになった人は、想像以上に人気者らしい。
中学時代から彼のファンだった彼女たちからしてみれば、ぽっと出の新人にずっと憧れていた王子様を取られてさぞ悔しいことだろう。
気持ちが理解できるからといって、譲る気は一切ないけど。
入学して二日目でこれだけの人に睨まれるのだから、今後も地盤をしっかり固めておかなければ足元をすくわれるかも知れない。
大変な高校生活が始まったなあ。
そんなことを考えながら理沙と連れ立って教室に向かうと、既に伶音君の周りには女子の人だかりができていた。
昨日の中学から一緒だった子達とはまた別みたいだ。
私同様、入学してから彼のことを好きになった人たちだろう。
「柚姫、どうするの」
「もちろん、私の前で勝手な真似はさせないわ」
理沙に問われ、当然とばかりに答えた。
迷わず集団に近づいてゆく。
すると、伶音君に群がっている女子の一人が、私と同じ中学出身だったことに気がついた。
特に関わりのない子だったけれど、これを利用しない手はない。
「ちょっと、どいてくれる?」
腕を組んで彼女に冷たい視線を送りながら言うと、振り向いたその子は何事か文句を言おうとして、その相手が私であることに気が付き、慌てて口をつぐんだ。
「あ……阿佐ヶ谷さん……」
「聞こえなかったかしら。どいてって言ってるの」
「はい……すみません」
私が強気で指図すると、彼女は素直に一歩下がった。
彼女があまりにも委縮しているものだから、ただならぬものを感じたのか、別の何人かも私にその場を譲る。
こうして私は難なく伶音君の前に進み出ることができたのだった。
「あ、柚姫。おはよ」
「おはよう、伶音君」
お互いの名前を呼びあう私たちに、何人かが眉を顰め、何人かが羨ましそうな顔をした。
でもそんなことは気にしない。
今はただ、私に人懐っこい笑顔を向けてくれる彼に釘付けだ。
「ねえ、今日、学校お昼まででしょう。もしよかったら、一緒にランチしない?」
明るい笑みを浮かべながら、用意していたセリフを述べる。
学校の中では落ち着いて会話もできないし、少しでも彼に近づきたかった。
伶音君はにこにこと無邪気に微笑みながら、うなずいた。
「うん、いいよ」
その瞬間、様子を窺うように静観していた少女達の間から、ブーイングが沸き起こる。
「いいなー、中野君とお昼」
「ねえ、中野君。私も一緒に行ってもいい?」
「私も私も」
伶音君は、女子の圧倒的な声量に押されていた。
「あ……じゃあ、柚姫、せっかくだからみんなで――――」
「だーめ」
伶音君、どうしてこんなに人がいいの?
女の子からデートに誘われたのに、みんなで遊ぶ会にしようとするなんて。
伶音君のある意味冷めた対応に少しだけ悔しさを感じた。
でも、笑顔は崩さない。
「私、伶音君と二人だけで、話したいことがあるの」
「え? そっか、わかった。そういうことだから、みんな、ごめんね」
ちょっとだけ甘えた声でそういうと、彼は素直にうなずいた。
再び起こるブーイングに、ごめんね、ごめんね、と伶音君はひたすら謝る。
素直すぎるがゆえに、無神経というか、鈍感というか。
出会って二日目なんだから当たり前だけど、全く女として見られてないのが切ない。
こればっかりは権力でどうなるものでもないんだから、正攻法で進んでゆくほかない。
あまり強引に進めすぎてもダメだけど、いつまでも全く意識されないのもつらい。
今日のランチで、ちょっとでも関係が変わりますように。