悪役ヒロインは恋してる
その日、放課後までに伶音君のファンから何度か文句を言われた。
朝、教室で私と伶音くんのランチの約束を見ていた子達だ。
噂を聞きつけてわざわざやってきた子もいる。
だがもちろん、強気な態度で全員返り討ちにした。
その日のお昼を迎えるまでには、そんな私の様子や朝の下駄箱前での事件、私の家柄や中学時代のことが女子の間ですっかり噂になっていた。
狭い学校の中で噂の伝達が早いのは勿論のこと、まだ入学して二日目なのにそんな話が光の速さで駆け巡ったのは、当然私の取り巻きたちの努力が大きい。
しっかりお礼をしておかないと。
そのお陰で放課後伶音君と落ち合った後も、ランチデートを邪魔されることは一切なかった。
もうしばらくすればライバルは一掃されること間違いなしだ。
そうなれば、私は一直線に突き進むだけ。
そんなことを考えてニヤニヤしていると、伶音君に顔を覗き込まれた。
「柚姫、どうしたの? なんだか一人で楽しそう」
愉快そうに笑う伶音君。
私はあわてて表情を引き締めた。
いけない、デート中なのに。
「なんでもないの。気にしないで」
「そう?」
軽くうなずくと彼は食事を再開した。
伶音君がハンバーガーにかぶりつく様子を眺める。
おいしそうに目を細める彼はまるで子供みたいで、見ているだけで幸せな気持ちが胸にあふれた。
「柚姫、普段はこういう店あまり来ないでしょ。大丈夫だった? 口に合う?」
「え……? ええ、初めて来たわ。でも、よくわかったわね」
伶音君の気遣うような言葉に、まだ家のことを何も言っていない私は戸惑ってしまう。
確かに、ファーストフードというのに足を運んだのはこれが初めてだ。
店の販売スタイルも、簡素な内装も、料理のチープな味わいも何から何までが新鮮。
少しだけ、心が躍る。
「だって柚姫、さっきから物珍しそうに店内眺めてるから。それに普段の口調とかいかにもお嬢様って感じだし。私立高校だとやっぱりお金持ちな子もいるんだね」
楽しそうに伶音君は笑うけれど、私は顔を真っ赤にしてうつむいた。
自分の行動がいかにもおのぼりさんだったことを指摘された恥ずかしさ。
そして、彼が私のことを見ていてくれたことへの喜び。
一人の男性の言葉ひとつひとつで、自分の気持ちがこんなに大きく揺れることがあるなんて。
「私の言葉遣いって、そんなにわかりやすいかしら。もしかして、浮いてる?」
「ううん、そんなことないよ。上品で女の子らしくて素敵だと思う」
何のためらいもなく、伶音君は私の心臓が壊れそうになるようなことを言ってのける。
これがわざとじゃないんだから、本当に困る。
さっきから彼のペースに乗せられっぱなしだ。
何か私が主導権を握れるような話にもっていかないと、心臓が持たない。
私はあわてて会話を方向転換した。
「ところで、私、バスケ部のマネージャーをやろうと思ってるの。伶音君は、もう部活は決めてるの?」
「えっ、柚姫、バスケ部入るの!? 俺もだよ」
「本当!?」
嬉しそうに、顔をくしゃっとして笑う伶音君。
勿論、これは偶然入ろうとした部活が一緒だったわけではない。
あらかじめ彼の中学時代の部活を取り巻きに調べさせていたのだ。
私はそこにマネージャーとして入部すればいい。
そうすれば、彼との距離が一気に縮まる。
「部活でもよろしくね」
「ええ、マネージャーとして精一杯お世話させて頂くわ」
作戦が少しずつうまくいっている。
達成感と喜びを胸に、私はにっこりほほ笑んだ。
「そういえば、二人だけで話したいことって何?」
思い出したように問われ、私は慌ててごまかしの言葉を探すのだった。
朝、教室で私と伶音くんのランチの約束を見ていた子達だ。
噂を聞きつけてわざわざやってきた子もいる。
だがもちろん、強気な態度で全員返り討ちにした。
その日のお昼を迎えるまでには、そんな私の様子や朝の下駄箱前での事件、私の家柄や中学時代のことが女子の間ですっかり噂になっていた。
狭い学校の中で噂の伝達が早いのは勿論のこと、まだ入学して二日目なのにそんな話が光の速さで駆け巡ったのは、当然私の取り巻きたちの努力が大きい。
しっかりお礼をしておかないと。
そのお陰で放課後伶音君と落ち合った後も、ランチデートを邪魔されることは一切なかった。
もうしばらくすればライバルは一掃されること間違いなしだ。
そうなれば、私は一直線に突き進むだけ。
そんなことを考えてニヤニヤしていると、伶音君に顔を覗き込まれた。
「柚姫、どうしたの? なんだか一人で楽しそう」
愉快そうに笑う伶音君。
私はあわてて表情を引き締めた。
いけない、デート中なのに。
「なんでもないの。気にしないで」
「そう?」
軽くうなずくと彼は食事を再開した。
伶音君がハンバーガーにかぶりつく様子を眺める。
おいしそうに目を細める彼はまるで子供みたいで、見ているだけで幸せな気持ちが胸にあふれた。
「柚姫、普段はこういう店あまり来ないでしょ。大丈夫だった? 口に合う?」
「え……? ええ、初めて来たわ。でも、よくわかったわね」
伶音君の気遣うような言葉に、まだ家のことを何も言っていない私は戸惑ってしまう。
確かに、ファーストフードというのに足を運んだのはこれが初めてだ。
店の販売スタイルも、簡素な内装も、料理のチープな味わいも何から何までが新鮮。
少しだけ、心が躍る。
「だって柚姫、さっきから物珍しそうに店内眺めてるから。それに普段の口調とかいかにもお嬢様って感じだし。私立高校だとやっぱりお金持ちな子もいるんだね」
楽しそうに伶音君は笑うけれど、私は顔を真っ赤にしてうつむいた。
自分の行動がいかにもおのぼりさんだったことを指摘された恥ずかしさ。
そして、彼が私のことを見ていてくれたことへの喜び。
一人の男性の言葉ひとつひとつで、自分の気持ちがこんなに大きく揺れることがあるなんて。
「私の言葉遣いって、そんなにわかりやすいかしら。もしかして、浮いてる?」
「ううん、そんなことないよ。上品で女の子らしくて素敵だと思う」
何のためらいもなく、伶音君は私の心臓が壊れそうになるようなことを言ってのける。
これがわざとじゃないんだから、本当に困る。
さっきから彼のペースに乗せられっぱなしだ。
何か私が主導権を握れるような話にもっていかないと、心臓が持たない。
私はあわてて会話を方向転換した。
「ところで、私、バスケ部のマネージャーをやろうと思ってるの。伶音君は、もう部活は決めてるの?」
「えっ、柚姫、バスケ部入るの!? 俺もだよ」
「本当!?」
嬉しそうに、顔をくしゃっとして笑う伶音君。
勿論、これは偶然入ろうとした部活が一緒だったわけではない。
あらかじめ彼の中学時代の部活を取り巻きに調べさせていたのだ。
私はそこにマネージャーとして入部すればいい。
そうすれば、彼との距離が一気に縮まる。
「部活でもよろしくね」
「ええ、マネージャーとして精一杯お世話させて頂くわ」
作戦が少しずつうまくいっている。
達成感と喜びを胸に、私はにっこりほほ笑んだ。
「そういえば、二人だけで話したいことって何?」
思い出したように問われ、私は慌ててごまかしの言葉を探すのだった。