アオイトリ
プロローグ
「毎週金曜日、夜7時からの『Music Stage』




今回は、初めに最近人気の覆面歌手の特集です!



覆面歌手とは顔出しをせずに歌のみを動画サイトなどにのせる歌手のことで、最近では『れな☆』さんや『ちろる。』さんなどのたくさんの人達がデビューし始め、覆面歌手というジャンルも徐々に定着してきていますが、




第一人者と呼べるにふさわしいのは、やはり歌姫と呼ばれたアオイさんでしょう。」



アオイ…?



今、アオイって言ったよな…?





なんとなくテレビを流し見ていた俺はその名前を聞いた瞬間、心臓がどくんと大きく鳴った。




衝撃のあまり動かなくなる体とは正反対に鼓動は速く、大きくなりつづける。





「アオイさんは一年ほど前、前代未聞だった覆面歌手として自ら作詞作曲しCDデビューしました。





共感をよぶ歌詞とその歌声で、瞬く間に大人気に、




しかし彼女は今年の夏頃、突然姿を消しました。





引退が囁かれていましたが事務所の正式な発表はなく、今も真相は明らかになっていません。



果たして彼女は今、どうしているのでしょうか?






……続いては今、人気急上昇中の天宮輝さん、綾瀬直さんのアイドルグループ『TWINS』から綾瀬直さんにソロ曲を歌っていただきま…」





―ピッ



どうにか動かした右手でリモコンのボタンを押し、自分が映し出されていたテレビの電源をきった。




俺は部屋で一人、黒くなった画面に今も映り続ける自分をぼーっと見つめる。




「ごめん、って言ったら、




お前は優しいからきっと気にしてないよって笑顔で許してくれるだろうな。」





…けどそんなんじゃダメなんだ。





「俺はあいつから一番大切なものを奪ったんだ。ごめんなんかじゃ到底謝りきれない」




だからこそ次はあいつと出会わない道を選んだ。




「今度こそ…俺のことも、歌のことも全部忘れて幸せになってくれよ。






…ナツキ。」
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