ここで彼女は夢を見る
美和子も祐介も、共にブライダルモデル。今日はこのホテルのブライダルフェアとして、模擬挙式と模擬披露宴を行う事になっている。ただし本来の花嫁役は他のモデルで、美和子は急遽立てられた代役だった。
初対面にも関わらず明るく話しやすい祐介のお陰で、美和子の緊張も軽口の応酬が出来る程度には解け始めている。
「憧れの場所なのに、本番より先に模擬挙式のキャストになっちゃうなんてがっかりしなかった?」
チャペルの扉の前に並び、正面を向いたまま祐介が囁いて来た。中の参列者席には既にフェアの参加者達がスタンバイしているはずだ。
「模擬挙式しようとしまいと憧れには変わらないですから」
美和子は背筋を伸ばし、手の中のブーケを握り直す。
「それに私、今日で引退するつもりなんです。最後の仕事が、この場所で良かった」
その言葉に、隣の祐介が美和子を見て軽く目を見張った。
十八歳でこの仕事を始めたのは、あの日美和子が惹かれた新郎新婦の姿の様に、いるだけで特別な空間を演出出来る存在になりたかったからだ。けれど現実は甘くなく、ファッション誌の専属オーディションには落ち続け、ドラマや映画の様な映像の仕事でもエキストラばかり。最近はブライダル関係と地方誌や通販カタログの小さな仕事が殆どだった。
容姿に品があるからブライダルの仕事に向いているとは言われても、自分には他と比べて特に光る物がない。その悩みを解消できずにいた時、事務社員に転身しないかと打診された。モデルをずっと続けられるかは不明で、歳を取る程転職も難しくなる。仕事にいい顔をしていなかった恋人が賛成した事もあり、その申し出を受けようと決め、今日の帰りに事務所に寄って返事をするつもりだった。次の予定がないので、このホテルが最後の仕事というのも美和子の区切りとしては丁度良い。そして保留しているプロポーズを受ければ、近い内にここで結婚式を挙げるという夢は叶うだろう。
「まあ俺も人の事言えないからなあ」
チャペルを退場した後、控室へ向かいながら祐介はそう言って肩をすくめた。
自己紹介で、自分もモデル業をやりつつ小さな劇団で演劇をやっている売れない役者なのだと彼は言った。出演したという映画やドラマの中には有名なタイトルもあったが、どれも端役なので知名度は皆無に等しい。
初対面にも関わらず明るく話しやすい祐介のお陰で、美和子の緊張も軽口の応酬が出来る程度には解け始めている。
「憧れの場所なのに、本番より先に模擬挙式のキャストになっちゃうなんてがっかりしなかった?」
チャペルの扉の前に並び、正面を向いたまま祐介が囁いて来た。中の参列者席には既にフェアの参加者達がスタンバイしているはずだ。
「模擬挙式しようとしまいと憧れには変わらないですから」
美和子は背筋を伸ばし、手の中のブーケを握り直す。
「それに私、今日で引退するつもりなんです。最後の仕事が、この場所で良かった」
その言葉に、隣の祐介が美和子を見て軽く目を見張った。
十八歳でこの仕事を始めたのは、あの日美和子が惹かれた新郎新婦の姿の様に、いるだけで特別な空間を演出出来る存在になりたかったからだ。けれど現実は甘くなく、ファッション誌の専属オーディションには落ち続け、ドラマや映画の様な映像の仕事でもエキストラばかり。最近はブライダル関係と地方誌や通販カタログの小さな仕事が殆どだった。
容姿に品があるからブライダルの仕事に向いているとは言われても、自分には他と比べて特に光る物がない。その悩みを解消できずにいた時、事務社員に転身しないかと打診された。モデルをずっと続けられるかは不明で、歳を取る程転職も難しくなる。仕事にいい顔をしていなかった恋人が賛成した事もあり、その申し出を受けようと決め、今日の帰りに事務所に寄って返事をするつもりだった。次の予定がないので、このホテルが最後の仕事というのも美和子の区切りとしては丁度良い。そして保留しているプロポーズを受ければ、近い内にここで結婚式を挙げるという夢は叶うだろう。
「まあ俺も人の事言えないからなあ」
チャペルを退場した後、控室へ向かいながら祐介はそう言って肩をすくめた。
自己紹介で、自分もモデル業をやりつつ小さな劇団で演劇をやっている売れない役者なのだと彼は言った。出演したという映画やドラマの中には有名なタイトルもあったが、どれも端役なので知名度は皆無に等しい。