ここで彼女は夢を見る
「吉野さん!」
 帰り際、祐介を探して声をかける。
 衣装を脱ぐと雰囲気が変わってしまい、私服で顔を合わせると今日一日共に過ごしたにも関わらず何だか気恥ずかしかった。
「ああ、美和子ちゃん。お疲れ様、私服も可愛いねー」
 祐介の軽口は相変わらずで、どこまでが本気なのか分からない。けれど今日、彼の気遣いや言葉に美和子が助けられ、背中を押されたのは確かだ。

「あの……今更ですけど、もう少し……足掻いてみたくなりました」
 美和子がそう切り出すのを聞いて、祐介が目を細める。
「いつかまた岐路に立つ時は来るけど、あの熱をまだ感じてたい。まだ私やりきってないなって。どこか自分に言い訳して、格好つけて必死になりきれてなかったなって、そう思うから……」

「美和子ちゃん」
 視線を上げると祐介が笑っている。今日何度も見た唇の端だけを上げる笑い方ではなく、意外なくらい柔らかくて優しい表情だった。
「美和子ちゃんの悩みは俺もずっと抱えてる物だから、結構刺さった。同じ様に思った事、何度もあるよ。……叶うなんて保証はどこにもないし、もっと傷ついて悔し泣きする事もあるかもしれないけど、でもまだ俺も諦め切れないんだよね」
 何度も頷きながら聞いている内に目頭が熱くなり、目の前の祐介の輪郭が視界の中で滲んだ。

「いつかさ、また共演しようよ。大河ドラマで主演の夫婦役なんてどう?激動の世の中を支え合って生き抜くおしどり夫婦、みたいなさ」
「ええ?!大河とは大きく出ましたね……」
「夢はでっかく目標は高く!いいじゃん、ここで式を挙げるのが夢なんだろ?その時にはマスコミが押しかけて来るくらい大物目指そうよ。再会はお互い出世した時に……って言いたい所だけど、この仕事続けてたらまた会う機会はあるかもね」
 そう言って祐介が右手を差し出す。美和子も笑って涙を拭ってから、その手を握り返す。言葉にし切れなかった決意と祐介への感謝が指先から伝われば良いと思いながら。
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