スイートルームで、一晩中



「すみません、送ってもらっちゃって。ありがとうございました……もう、大丈夫ですから」

「……本当か?」

「本当です、本当に大丈夫だから……」



まっすぐこちらを見る、彼の視線を感じて、顔が上げられない。

下を向いて繰り返す言葉に、三宅さんは突然私の頬に手を添えるとそっと顔を上げさせた。



ごつごつとした彼の手の感触を感じたと同時に、互いの目と目がしっかりと合う。



「お前さ、その『大丈夫』ってやめろよ」

「え……?」

「そうやって『大丈夫』って自分に言い聞かせるの、やめろ。……無理するな」



まっすぐにこちらを向く彼の茶色い瞳には、目を丸くした少し間抜けな自分が映る。



驚いてしまう。間抜けな顔にだって、なってしまうよ。

だって、そんなこと言われると思わなかった。



だって、大丈夫だから。いつだって、私は大丈夫。

大丈夫、だいじょうぶ、だって。



「……だって、そう思わないとやっていけない」



『大丈夫』と、いつだって自分に言い聞かせるその言葉が、私には必要だ。

想いを踏みにじられても、大切な人が離れても、どんなに傷ついた時だって。

その言葉を繰り返せば、大丈夫な気がした。



私なら大丈夫、私なら強い、私はめげない。

何度だって、そうやって。


< 8 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop