スイートルームで、一晩中
「すみません、送ってもらっちゃって。ありがとうございました……もう、大丈夫ですから」
「……本当か?」
「本当です、本当に大丈夫だから……」
まっすぐこちらを見る、彼の視線を感じて、顔が上げられない。
下を向いて繰り返す言葉に、三宅さんは突然私の頬に手を添えるとそっと顔を上げさせた。
ごつごつとした彼の手の感触を感じたと同時に、互いの目と目がしっかりと合う。
「お前さ、その『大丈夫』ってやめろよ」
「え……?」
「そうやって『大丈夫』って自分に言い聞かせるの、やめろ。……無理するな」
まっすぐにこちらを向く彼の茶色い瞳には、目を丸くした少し間抜けな自分が映る。
驚いてしまう。間抜けな顔にだって、なってしまうよ。
だって、そんなこと言われると思わなかった。
だって、大丈夫だから。いつだって、私は大丈夫。
大丈夫、だいじょうぶ、だって。
「……だって、そう思わないとやっていけない」
『大丈夫』と、いつだって自分に言い聞かせるその言葉が、私には必要だ。
想いを踏みにじられても、大切な人が離れても、どんなに傷ついた時だって。
その言葉を繰り返せば、大丈夫な気がした。
私なら大丈夫、私なら強い、私はめげない。
何度だって、そうやって。