その恋、逃亡中。
……確かに、手切れ金の話は、二週間前に会ったとき、くるみの方から持ち出したものである。

しかしそれは単に言葉のはずみであった。

今年、大学を卒業し、サラリーマンになったばかりの信二には、手切れ金を出せるはずがないという計算も働いていたのかもしれない。

絶対に別れるのがいやだという気持ちが、自制にもかかわらず、そんな言葉を口に出させてしまったのに違いない。


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