その恋、逃亡中。
「起きていたの?」
と、くるみは声をかけながら、まくらもとの時計を引き寄せた。まだ六時半だった。「どうしたの?こんな時間に……」
「うん、ちょっとね」
彼は新聞から眼を離さないで答えた。
このアパートでは、それぞれ郵便受けが玄関口に設けられてある。それには一々個人別の名がついている。新聞も、その郵便受けに差し込まれるのだった。だから、信二が新聞を読んでいるということは、彼が自分で、それを取りに行ったことを意味している。