その恋、逃亡中。
「どうしたの?ずいぶん熱心だね」
くるみはベッドから起き上がりながら言った。言葉に皮肉をこめていた。
「え?何が?」
「だって、さっきから新聞を見続けてるじゃない。何か面白いこと載ってるの?」
「あ?」
彼は、あわてたように、新聞をたたみかけた。その拍子に、彼の見ていたのが、社会面であることをくるみは知った。
「つまりね」
かれはたたみ終えた新聞を脇へ追いやり、脈絡もなく話しかけた。「いや、大したことじゃないよ、時間つぶし」
それが、弁解のための弁解に過ぎないことは、くるみにもすぐわかった。信二の視線が、ぎこちなく動いていた。